公開日 2018年10月03日
今回の作品のストーリーを、少しだけ教えてください。
作・演出:横山拓也横山 タイトルのとおり、人が人に会いに行く話になります。幼年時代に仲良しだった2人が、過去に起きたある事故によって被害者と加害者になってしまったのだけど、その数十年後に、その事故のことを引きずったまま大人になってしまった加害者側が、被害者側の人に会いに行こうとする話です。加害者にとっては、ずっと心のわだかまりになっていて、それを自分の中で何とか解消できないだろうかという思いで会いに行くわけです。『雨だけど』というのは、実際の雨というよりは、少し勇気がいるというか、乗り越えるためには壁が高すぎるというか、“そういうハードルを乗り越えて久しぶりに会いに行こうとする”という意味に取ってもらえればいいかなと思います。僕自身、人生を振り返ってみて、「あの人は今どうしてるんだろう」とか「あのことは、その後どうなったんだろう」とか、いろいろ思い出すことがあって、その思いを芝居にしてみたいと思っています。
今回の出演者は、どのように選ばれたのでしょうか?
横山 今回インタビューに集まってもらった3人は、全員『粛々と運針』(2017年6月初演)に出演してもらった方たちなのですが、その『粛々と運針』という作品は、自分の中でも、少しだけ手応えを感じることができた舞台でしたので、また違う作品をこの3人を中心に作れないかなと思い、声を掛けました。そしてさらに、今回初めてご一緒する異儀田さんや松本さんも含め、自分の中では盤石な俳優さんに集まっていただけたと思っているのですが、プロット(=物語の骨格)を考えていくうちに、ストーリーがどんどん広がっていって「これでは役者の数が足りない!」ということになりまして、オーディションを行って、さらに出演者を選ばせていただきました。そのオーディションにおいても、素晴らしい役者さんと出会えましたので、自分自身もこの作品を本当に楽しみにしているんです。
俳優の皆さんは、iakuの創作現場の雰囲気をどのように感じていらっしゃいますか?
尾方宣久(MONO)尾方 役について、話し合いをすることが多いなあと思いますね。今まで、自分の所属劇団(MONO)はもちろん、それ以外にもいろいろな劇団に出演させていただきましたが、どの劇団よりも、役についてのことや、芝居についてのことを話し合う機会が多いなあと思います。
横山 役者さんのイメージに沿ってセリフを書くこともありますが、そうでない時もあるので、時に「役者さんにとって、このセリフはしっくりきているのだろうか」と疑問に思う時があるんです。自分の感覚の中ではしっくりきているのだけれど、自分の体験とか経験に寄り過ぎてしまうと、俳優さんの生理や感覚と、ずれているんじゃないかと思うこともあるので「こういう感覚って分かります?」とか、「こういう時って、普段はどうされてるんですか?」などと、俳優さんに聞きながら作っていくことが多いんです。もちろん、物語というのはフィクションではあるのですが、ある意味、役者さんにあまり嘘を付かせたくないというか、大きな負荷を掛けずに役者さんの言葉にして演じてもらいたいというか。ですので、自然と役者さんと話をする時間が多くなるのかもしれません。
橋爪 「今、どういうふうに思って演じてるの?」と聞いてくれたり、稽古じゃない時間でも、例えば帰り道などでも話を聞いてくれたりすることがあって、そういう時に、すごく役者のことを信頼してくれているんだなあと感じることがありますね。だから時には正直に「このセリフ、全然意味が分かんない」と言う時もあります(笑)。
そういう時、横山さんはなんて仰るんですか?
橋爪未萠里(劇団赤鬼)橋爪 「なんでだろうねえ」って(笑)。
横山 逆に、僕の方も「役者さん、何でこういうふうに言うんだろう?」って疑問に思うこともありますしね。でも、その話し合いの中から、俳優さんがそのセリフを自分のものにしてくれる時もありますし、時には、そのシーンに一番ふさわしいセリフが新たに生まれることもあるので、やはり話し合いは、僕にとってとても重要ですね。
近藤フク(ペンギンプルペイルパイルズ)近藤 『粛々と運針』の初演の時に初めてiakuに出演したのですが、横山さんは芝居に対してとてもストイックに感じられて、稽古でもプライベートでも、もう芝居のことばかり考えている人のように思えて、少し緊張しましたね。今でも覚えているのですが、稽古の序盤で尾方さんに、テレビドラマ「ウォーキングデッド」が面白いと勧めてもらったら、もう嵌ってしまって毎日のように見ていたのですが、最後までそれを横山さんに言えなかったんですね(笑)。なんか横山さんに言うと「もうシーズン2に入ったんですか?ペース早すぎませんか?ウォーキングデッドを見ている時間があったら、台本読んでくださいね」と言われるんじゃないかと(笑)。だから、ウォーキングデッドを見るのは、稽古場の行き帰りだけって決めてました(笑)。
横山 そんな緊張させてたの?(笑)。そんなことないんだけどなあ。僕自身の今後の課題ですね(笑)。でもまあ近藤さんは、どんなシーンでも的確に反映してくれるから、そんなに話し合いをしなくても大丈夫だったんですね。だから、なかなか距離感が縮まらなかったのかもしれません(笑)。
尾方さんとも、その『粛々と運針』が初めて組まれた作品ですよね。
横山 尾方さんは、とにかく僕が大好きな劇団MONOの役者さんですし、信頼感も安心感もあったので、逆に、尾方さんにご出演いただいて自分の劇団で芝居がやれるなんてということで、本当に嬉しかったですね。だから尾方さんも、僕の感覚とほとんど大きなズレはなく、すんなりとお芝居をやっていただけたなと思っています。でもそんな尾方さんが先程、「よく話し合いをする劇団だなと思った」と仰ったので、僕が思っていたほどは感覚を共有できていなかったのかと、今、気付きました(笑)。
橋爪さんは、もう何度もiakuに出演されている、常連の女優さんですね。
横山 橋爪さんにはいろんな役をやってもらっていますけど、どうもiakuでは意地悪な女の子の役が多いかなと思います(笑)。
橋爪 iakuの舞台で私のことを知ってくださった方からは、初めて会った時に「性格がきつい人かと思っていました」と、言われることが多いですね(笑)。
横山 本当に何でもできる役者さんなので、人間の持つ嫌な部分とか、トゲトゲしい部分とか、世の中の大多数の人はそれをうまく隠しながら生きていると思うのですが、そういった感情を、舞台上でほんの一瞬垣間見せる演技が素晴らしくて。その瞬間、舞台上が“ひりっ”っとするんですよね。本当に頼りにしています。でも、橋爪さんの場合、舞台だけではなくて、プライベートでも“ひりっ”っとすることが多いんですけどね(笑)。
橋爪 私の欠点だと、反省しています(笑)。
横山 まあ実際、橋爪さんの場合、意地悪というよりは、きちんとした主張がある人ということなんだと思います。ただ、沸点が、人より少し低いのかな(笑)。「ああ、カチンと来はった」と気付くことが結構あって(笑)。でも、僕はあまり感情を表に出していくことが得意ではないので、感情を素直に出せる橋爪さんはとても魅力的だなと感じるので、それをうまく劇の中に収めたいなと思っています。
三鷹では3回目の公演となりますが、横山さんご自身が演出されるのは初めてとなります。
横山 以前所属した劇団では演出もやっていたのですが、iakuというユニットを旗揚げする時に「脚本の強度を上げて、何度再演しても鑑賞に耐えうる作品を作っていこう」と考え、基本的に演出においては、信頼できる演出家の方に任せてきました。最近は、iakuで自作の演出もすることが増えてきて、今回、三鷹という少し大きな劇場にチャレンジする気持ちで、演出的な高みを目指したいと考えています。
気になっている方も多いと思うのですが、iakuという劇団名について教えてください。
横山 戦国武将が、合戦場で陣地を構える際に使用する幕のことを『帷幄(いあく)』と言いますが、そこから転じて「作戦を練る場所」という意味もあるんです。劇団を旗揚げする際に“これから、自分一人だけで陣地を構えて戦っていくんだ”という覚悟を持って臨むためにつけました。ただ、確かに自分一人の劇団というか、ユニットではあるのですが、最近は、信頼できるレギュラーともいえる俳優さんやスタッフさんも増えましたので、心の中では「みんな、iakuを名乗ればいいのに」と思ったりしてします(笑)。
ローマ字表記にされた理由は?
横山 漢字だと読めないし、ひらがなだとちょっとダサいしということで(笑)。でもそれよりも何よりも、ローマ字で書くと、尾形さんが所属していらっしゃる劇団MONOと同じ『ローマ字4文字表記』なので、リスペクトしてつけました(笑)。
尾方 光栄ですが、僕は劇団の末端なので(笑)。でも、嬉しいですね(笑)。
それでは、お客様へのメッセージをお願いします。
橋爪 iakuの作品は、毎回タイトルが素敵だなと思うのですが、今回の『逢いにいくの、雨だけど』というタイトルも、とても気に入っています。そして、iakuに出演するたびに、自分が気付けなかった自分を見つけてもらえるので、お客様にも同じように、今まで気が付かなかった自分自身の姿を、舞台上に見つけてもらえたら嬉しいなと思います。
尾方 新作ということで、またiakuで違う役をやれるということが、本当に嬉しく、そして楽しみなんですが、欲を持つと良い方には行かないタイプなので(笑)、心を無にして、演出家に言われた通りに(笑)、演じられたらと思います。
近藤 『粛々と運針』の初演の時に、ある程度ベストの演技ができたかなと思っていたのですが、今年再演に臨んだ時に、まだまだ足りてなかったんだなと気付かされたんですね。もちろん『粛々と運針』の初演の時も手を抜いたわけではないのだけど、今回は初演からしっかりと、作品を物にしていきたいです。
尾方 「初演から」って、もう再演するつもりなの?(笑)。
近藤 いや、でも、たいてい再演されますよね?(一同爆笑)
尾方 でも再演の時に、また呼ばれるとは限らないよ(笑)。
近藤 もちろんもちろん(笑)。だから、呼ばれるように、初演頑張ります(笑)。
横山 iakuでは1年ぶりの新作ですが、iakuの良い面は残しつつ、いろんなチャレンジを盛り込んでいけたらと思っています。例えばですが、起筆に先行して舞台美術を打ち合わせしてみたり、普段はあまり劇中で使用しない音楽を、昔からご一緒したかったアーティストに相談して、選曲を進めたりしています。意識としてですが、できるだけこぢんまりしないようにということを常に念頭において作品を作りたいと思っていますので、どうかその点もご期待いただければと思います。劇場でお待ちしております。
本日はありがとうございました。
2018年8月4日 三鷹市芸術文化センターにてインタビュー