インタビュー「ワーヘリ」外囿祥一郎

公開日 2018年11月11日

Interview「ワーヘリ」外囿祥一郎
 

外囿さんが金管楽器を演奏するようになったのは?

幼い頃からオルガン(電子オルガン)をやっていて楽譜が読めたというのが、吹奏楽部に入ったきっかけです。当時は子どもが多かったので通っていた中学校は1学年8クラスあり、弱小の吹奏楽部でも5、60人くらいの部員がいたんです。そこで僕はトランペットを吹いていました。

 

高校は吹奏楽コンクールの常連校に進学されましたね。

吹奏楽コンクールでその学校の演奏を聴いて、すごく感銘を受けました。それで、この学校に行きたい!と思いました。しかし、その学校のトランペットは本当に上手だったんですよ。僕なんかがここにいても駄目だろうなあと思って、ユーフォニアムに転向しました。

 

当時、ユーフォニアムにどのような印象をもっていらしたのでしょうか?

正確には覚えていませんが、男性の声に近い音域なので歌える楽器じゃないかな?という印象は持っていたかもしれません。金管楽器をちゃんと吹けるようになるには時間がかかるので、先輩方の演奏を一生懸命見たり聴いたり教えていただいたりして、演奏のヒントを得ていきました。今思えば、ユーフォニアムは僕に特別な力を与えてくれた楽器なのかもしれません。

 

高校卒業後は、航空自衛隊中央音楽隊に入る道を選ばれたんですね。

自衛隊の音楽隊に就職するのは、今は音大を出ても入れないという難関です。もともと音大受験を念頭にピアノも習っていましたが、家庭の事情から音大に進まず、たまたま音楽隊にいた先輩の勧めでオーディションを受けました。そもそも高校の先生は「音楽をやっても将来全ての人がそれで食べていけるわけではない」と仰り、音大を勧めなかったんですね。先生の本心はわかりませんが、「音大に行きたいと簡単に言ってもそれだけのやる気があるのか?」と試されていたのかもしれません。

 

本格的な音楽の勉強を始められたのは、自衛隊の音楽隊に入られてからでしょうか?

入隊するために上京してから、東京佼成ウィンドオーケストラの三浦徹先生の個人レッスンを受けにいくようになりました。

 

音楽隊の1日はどのようなものだったのでしょうか。

年間約100回から120回の公演があり、毎日リハーサルに追われていました。普通の自衛官ですので、朝8時から夕方5時までの勤務時間。8時に集まって朝礼があり、その後音出しして9時半から2時間、1時半から2時間というように練習時間がありました。入ったばかりの頃は、社会人一年生のように掃除にお茶くみもやりました。高校時代からやっていたので、僕は全然苦に思いませんでしたけど。人事担当、ドライバーの方はいるのですが、楽譜係や演奏業務の調整係などを皆が兼務し、自分たちで運営していました。

 

ソリストになりたいと思われたのもこの頃ですか?

世界的なユーフォニアムの名手、ブライアン・ボーマンや、スーザ・バンドの伝説的なトロンボーン奏者で「口笛吹きと犬」の作曲で有名なアーサー・ブライアーらの録音を三浦先生に色々聴かせていただいたものの、ソリストになりたいという気持ちはまだ芽生えていませんでした。しかし、コンクールに挑戦して賞をいただくと、音楽隊の演奏旅行でソロをやるように言われるようになり、その都度曲目を開拓していかなければならなくなりました。ちょうど同じ時期にイギリスのスティーヴン・ミードさんという方が凄いユーフォニアムのソロをなさっていたんですね。ミードさんは現在55歳くらいの方ですが、当時、曲目の発掘と演奏を盛んに行っていらしたことにも影響を受けました。

 

そして、外囿さんのソロを録音したCDがリリースされました。

ユーフォニアムのCDは、それまで三浦先生しか出されていなかった、そんな時代でした。自衛隊音楽隊で、たまたまヴォルフの『カルミナ・ブラーナ』を録音していた時のことです。当時の指揮者が、この作品でソプラノ独唱の部分をユーフォニアムのソロにしようと次々に言われて。ここはソプラノのソロなのになあなんて思ってました(笑)。その後、クラウンレコードの会議で、「このユーフォニアムは誰が吹いているんだ?!」という話になり、そのうち「彼のソロのCDを作るのが面白いんじゃないか?」ということになり、当時自衛隊の企画に携わっていた方がソロのレコーディングのお話をくださったんです。本当に幸運でした。3、4ヶ月後に録音し、半年後に発売というスケジュールでした。1枚目の「外囿!」とジャケットに書かれたCD*です。当時、ユーフォニアムがソロを演奏するCDがなかったことから、有難いことにクラウンレコードが音楽隊のCDの中でも一番売れたと伺っています。このCDには本当に感謝しています。
*「ファンタスティック・ユーフォニアム」(1995年)

 

Interview 外囿祥一郎

ここからは「ワーヘリ」についてお伺いします。テューバの次田心平さんとの出会いについて教えていただけますか。

次田君は実は僕より9歳年下で、彼が上京して日フィル(日本フィルハーモニー管弦楽団)に在籍していた頃から仲がいいです。ワーヘリ結成前から楽しい仕事を一緒にやることが何度もありました。

例えば、トロンボーンの村田陽一さんから声をかけていただいた、ヴォーカリストの吉田美奈子さんと小さな吹奏楽で共演する仕事を渋谷のシアター・コクーンで一緒にしたこともありました。その後、ユーフォニアム1本とテューバ1本の企画で彼と共演したり。本当にいい人で面白いなあと思ったんです。

ある日、心平が仕事を頼まれた時に僕に話があり、「デュエットもやった方がよいよね?」「他にはない編成だから、曲を書いてもらわないと」「なんか一緒に演ろうか!?」という流れで「ワーヘリ」結成に繋がったんです。結成後のあるコンサートで、プログラムにそれぞれのソロ曲も入れたら演奏時間が長くなってしまったこともありました。アンケートに「ソロも聴きたかった」と書かれているのを見て、お互い12、3分の曲を選んでしまったんですね。結局2時間を超えてしまった(笑)。というわけで、「ワーヘリはデュエットをやるのがよい」という結論に至ったんです。

 

ワーヘリで演奏されるオリジナル曲や編曲はどのように生まれるのでしょうか。

幸運なことに、お付き合いのある方々の中に僕たちの仕事を手伝ってくれる方がいらっしゃったんです。前田先生、加羽沢さんなど皆さんのアイディアを少しずつ拝借して、現在に至っています。ピアノで作曲される方にとっては「倍音」の扱いが難しいので、慣れていらっしゃらないと必ず音を多く書いてこられます。僕たちにとって、吹きっぱなしは辛いんです(笑)。例えば、加羽沢さんの作品で「冷たい海」という素敵な曲があるのですが、「低音が伸びているところ、ここを僕たちがやりたいんです。これがいつも僕たちのやっている仕事なんです」というように教えて差し上げたりしました。管楽器は音が減衰するピアノと違って、音が立ち上がってから消えるまでの間にだんだん音量を大きくしたり、小さくしたりすることができます。偉い先生方を前にしても、僕たちは平気で「ここはこういう方にやるのがいいんですよ」とお見せするんです(笑)。皆さんすぐ理解してくださいます。

 

お名前の挙がった加羽沢美濃さんの曲も今回演奏されますね。

「やさしい風」は、NHKの番組でも取り上げられた、加羽沢さんがとても大事になさっている作品です。とてもきれいなメロディなんです。加羽沢さんからユーフォとテューバで演奏するようにご提案いただいたのですが、我々が演奏することで加羽沢さんとWin-Winの関係が築ける、それがとても有難いです。音がとても温かいんですよ。風のホールのように天井の高いホールだと、音が上から降ってくるような感じを味わっていただけると思います。

 

松本さん作曲の「Two Dogs」は、今回が世界初演になるそうですね。

僕たち二人が激しい動きをしながら演奏をしているのを見て、まるで犬が喧嘩をしたりじゃれたりしているみたい、と松本さんがおっしゃったんですよ。それで、タイトルが「Two Dogs」になりました(笑)。リハーサルや本番での僕たちの様子を面白く書いてくださるんじゃないかなと思います(笑)。

 

外囿さんから見た次田さん、松本さんは?

次田君は、演奏技術はもちろんキャラクターも日本から世界に発信できる演奏家の一人だと思います。彼はあまり物怖じしない性格で、末っ子気質のところがあります。彼とはテューバ・バンドも一緒にやっているんですが、「できるんちゃいますか?」「じゃ、やるか!」という会話のキャッチボールがあり、もっとできる!もっとできる!とサジェストしてくるんです。松本さんは、作曲家でいらっしゃるうえにピアノもとても上手。物事のツボを押さえるのが巧くて面白い方で、色々なテイストの引き出しを持っています。彼女と一緒にやるようになってから、話をしているとどんどん盛り上がっていくのを感じています。

 

外囿さんにとって、ワーヘリとは?ユーフォニアムとは?

自分の個性を一番出せるのがユーフォニアム、僕のいい「相棒」です。ワーヘリはお互いが高め合う存在。「そうきたか!」「それならばもっと!」将棋みたいなものかもしれませんね。お互いがやりにくくなるのではなく、お互いが切磋琢磨できる楽しい場です。

 

最後に、メッセージをお願いします。

聴きにきてくださったお客様に「何か」を残すコンサートにしよう、聴きにきて良かったと思っていただける「何か」を残したい、と考えて演奏しています。音楽は「心で奏でるもの」だと思います。僕と次田君が奏でる音を通して、それぞれの「個性」を聴いていただければと思います。個性の良し悪しではなく、真正面から見たり、真横から見たり色々な見方ができると思います。その人が強く思っていること、強く言いたいことが個性であると思うんです。そこを皆さまに聴いていただければと思います。

 

コンサートを楽しみにしています。ありがとうございました!

インタビュアー 大塚真実(当財団 音楽企画員)
8月31日 三鷹市芸術文化センターにてインタビュー
 
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