『iaku』インタビュー

公開日 2020年04月17日

『iaku』インタビュー
 
鋭いまでの人間観察眼をもとに、骨太で濃密な会話劇を生み出し続け、
今、演劇界で最も注目を集めている劇団のひとつである、iaku。
岸田國士(くにお)戯曲をモチーフに作り上げた『あたしら葉桜』の上演を前に、
iakuの主宰であり、本作品の脚本を務めた横山拓也さんに、お話を伺いました。
 
初演の頃のことを教えてください。

横山拓也横山 カトリヒデトシさんという演劇プロデューサーの方から、「岸田國士(くにお)戯曲による舞台を作ってもらえませんか?」というご依頼を受けて、2015年3月に西武新宿線沿線の鷺ノ宮にある「古民家asagoro」という古い日本家屋で上演したのが最初です。その時は、役者は別の方たちでしたが、演出は今回同様、上田一軒さんに担っていただきました。僕自身は、ずっとオリジナル作品だけを書いてきたので、他の作家の戯曲をもとに作品を作ることへの気持ちの持ちようが、最初は難しかったですね。なので、大学時代以来久しぶりに開いた岸田國士戯曲を何度も読み返し、上田一軒さんとディスカッションしながら、アプローチしていきました。やがて執筆し始めてからは、1926年(大正15年)に書かれた『葉桜』を現代に置き換える時に、母と娘の関係性を、どういう設定で、どういう表現を使えばiakuの持ち味との相乗効果を生むのかをつかまえるまでに時間がかかりました。現代において、恋愛や結婚の障壁とは何だろうと、親子や世代の間で理解が難しいことや、距離が縮まらないこととは何だろうと、その題材の選び方や扱い方にたどり着くまでに、とても苦労したんです。それ故、書き終わった段階では、作品として自らの手の内に入れた感じがあまりしなくて、上演してみて初めて「ああ、こういう作品になったんだなあ」と、手応えを感じたのを覚えています。

 
その後、2018年5月に再演されました。

『あたしら葉桜』2018年5月 / こまばアゴラ劇場
『あたしら葉桜』2018年5月 / こまばアゴラ劇場
 林 英世(写真左)、松原 由希子(写真右)
横山 初演時は『あたしら葉桜』だけの上演でしたので、「原作『葉桜』の朗読と、現代に置き換えた『あたしら葉桜』を、2作品並べて上演する」というアイデアにすごく興味が湧いて、再演しました。「2人の作家、2人の作品、2つの時代」を並べることで、原作『葉桜』を現代に置き換えた意図や意義が、より明確に浮かび上がるのではと思ったんですね。

 
再演されてみていかがでしたか?

横山 前半に原作の朗読があることで、後半の『あたしら葉桜』の創作性がお客様にもダイレクトに伝わりますので、初演よりも緊張感がありました。ありがたいことに評判も良くて、自分の中では、企画の面白みが伝わったかなと嬉しかったですし、良い作品になったなという思いがありました。

 
その上で、今回三鷹での公演に、再び『葉桜』『あたしら葉桜』の連続上演を選ばれました。

横山 再演時、大変評判が良かったのですが、残念ながら上演回数が少なかったので、あまり多くの方に観てもらえなかったんです。それがとても残念で、いつかもっとたくさんの人に観てもらえる機会があればと思っていたところ、三鷹のホールの方とご相談する機会があり、「再演の時と全く同じ役者とスタッフで、ぜひより多くの人に観てもらえたら」と思い、この作品を上演させていただくこととなりました。特に今回は、4月下旬という、東京ではまさに「葉桜」の頃なんですね。その季節感もぴったりな時季に、上演してみたいと思ったんです。

 
出演者に、林英世さんと松原由希子さんを選ばれた理由は?

『あたしら葉桜』2018年5月 / こまばアゴラ劇場
『あたしら葉桜』2018年5月 / こまばアゴラ劇場
林 英世(写真左)、松原 由希子(写真右)
横山 林さんは2017年に「関西現代演劇俳優賞女優賞」を受賞されるなど、演技力が確かであることに加え、ライフワークとして、「ひとり語り」というタイトルで、いろいろな小説を朗読されていまして、この企画においては、その「読む力」が大きな助けになると思い、お声掛けしました。松原さんは、僕が今、関西で最も評価している劇団「匿名劇壇」で活躍されており、林さんが「女優賞」を受賞された年に、松原さんも同賞の「奨励賞」を受賞されるなど、注目を集めている女優さんです。この作品においては、昭和初期と現代という2つの時代の女性を演じ分ける力量を持ち、芯の強さと清潔感を兼ね備えた女優さんであることから、出演をお願いしました。

 
演出は、初演からずっと、上田一軒さんですね。

横山 上田一軒さんの演出は、舞台上での役者同士の距離感の取り方が、ものすごく繊細で美しく、出演者の心情や関係性を表わしていくんです。そして、俳優がその演出に応えて、きちんとルールを守りながらも、自分たちの俳優としての魅力を存分に保ち、表現している。僕だったら、もっとラフに演出するだろうなと思えるシーンにおいても、ある意味、様式美のようなものを湛えながらも、役者がいきいきと魅力を表出できるように仕上げていく。上田さんの演出は、本当にすばらしいなと思いますね。

 
今回の再々演、どのような思いで臨まれますか?

横山拓也横山 三鷹市芸術文化センター星のホールでの上演なので、過去に『あたしら葉桜』を上演してきたどの会場よりも空間が広く、天井までの高さもあります。なので、舞台美術や照明など、一丸となったスタッフワークで、まるで舞台上に「一幅の絵」を見るような、今までよりも相当美しい「絵作り」ができるのではないかと思い、楽しみでなりません。

 
それでは最後に、お客様へのメッセージをお願いします。

横山 朗読と現代劇を並べての上演という企画は、他のiaku作品には無い魅力があります。文芸作品そのものの味わいを楽しむということと、その作品に触発されて作られた現代劇の差を楽しんでいただく中から、母と娘の関係性の、時代を経ても変わらぬ何かを、感じていただけたらと思います。

 
本日はありがとうございました。
インタビュアー 森元隆樹(当財団 演劇企画員)
2019年11月12日 三鷹市芸術文化センターにて