『劇団普通』インタビュー

公開日 2023年04月05日

『劇団普通』インタビュー
リアリティを極限まで追求し、全編茨城弁での舞台を試みる「劇団普通」。
星のホールでの新作公演を前に、作・演出の石黒麻衣さん、出演の用松(もちまつ) (りょう)さん、安川まりさんに、お話を伺いました。
 

今回の『風景』はどんな作品になりそうですか?

作・演出の石黒麻衣さん
作・演出の石黒麻衣さん

石黒麻衣 2019年の『病室』以降、『電話』、『秘密』と茨城弁で家族の姿を描いた作品を上演してきました。本当に身近で、生活の中に普通に起こりうるお話を書きましたが、「自分のことかと思った。」「どこかで見られていたのかと思った。」との反響を思いがけないほど沢山いただき驚きました。普段はうかがい知る機会のない周囲の方々の生活に思いを馳せると同時に、あまりにも身近だからこそ、普段は人に話すことがない部分をこうして作品にすることで、何か観る方のお心に寄り添えることもあるのではないかと思っています。茨城弁の作品をいつまで書くか、ずっと書き続けるのか決めていませんでしたが、もっと物語の中で描きたいエピソードや構想があり、6月の新作『風景』も茨城弁の作品を作ることにしました。自分の体験や、見聞きしたことと想像を織り交ぜて、これまでも取り扱ってきた田舎と都会、家族の世代間で抱えている問題を書いていきたいです。そして、少しずつですが、新たな挑戦も作品に加えていきたいと思っています。

 

劇団普通の稽古はどんな雰囲気か教えてください。

出演の用松亮さん
出演の用松亮(もちまつ りょう)さん

用松 亮 多くの稽古場は、「はい!やるよ!」と言って、手をパンと叩いて、稽古が始まったりしますが、劇団普通にそういうのはないです(笑)。石黒さんが「じゃあ、お願いします…」とか、「そろそろ始めましょうか…」と役者に伺う感じで、ふわっと始まります(笑)。演技を見たあとも、まず一言目には「素晴らしいです…」と言ってくれますね。

安川まり 「それは違います。」みたいに否定から入ることがないです。演出をつける際にも、ダメ出しとは言わずに「こんなふうに演じるのを、おすすめします。」と仰います。

用松 演じる側も「おすすめされたから、試しにやってみるか…」って気持ちになりますね(笑)。

安川 何度も同じシーンを稽古するというよりは、コミュニケーションを取る時間が多いです。1シーン演じて、そのシーンについて話していると1時間くらい経っていることもあります(笑)。

用松 稽古時間の半分以上、台本や作品について話し合っている日もありますね。

石黒 役者さんにも面白いと思って舞台に立っていただきたいので、段取りをつけるのではなく、作品の意図や、どんな雰囲気のシーンにしたいのかを共有します。「これが面白いと思うので、やっていただけませんか?」と、役者の方へのプレゼンテーションのつもりで稽古を進めるようにしています。

 

お二人から見て、石黒さんはどんな方ですか?

出演の安川まりさん
出演の安川まりさん

安川 普段からにこやかで、稽古の時とあまり変わらないですが、演技を見ているときは真剣で、キリっとした表情になります(笑)。

石黒 「見落とさない!」って顔をしてるのかなと思います(笑)。

用松 稽古ではよく場所を変えたりしながら、いろいろな角度から演技を見てくれるんですが、ふと気付くと、稽古場の端の方でニコニコしている時もあります(笑)。

安川 母親みたいな部分もあるのかも。丁寧でしっかりしているけど、でもたまに無性に慌ててることもあったりしますね(笑)。

 

石黒さんから、お二人の印象について教えてください。

石黒 用松さんは、謎の部分が多い方です。2015年くらいに別の劇団の稽古を見学したときに初めて見かけて、その時に「上手いなあ…」と思いました。それから、ずっと出てほしかった役者さんで、実際に一緒に稽古をすると、やっぱりすごく上手なんです。なので「どうやって演技してるんですか?」って聞いたら、「適当にやってるだけだよ。」って(笑)。演技の秘密がずっと謎の方です。

用松 自分じゃわからないですもん(笑)。

石黒 でも、よくよく話を聞いてみると、やっぱり台本をすごく深く読み込んでいて、ご自分の中で役を組み立てながら演じてくれているんだなと感じます。安川さんも本当に演技が上手で、すごく真面目な方です。私は稽古中、作品について熱く話し過ぎて、「あれ、なに話してたっけ?」と、しどろもどろになってしまうことがあるんです。その時も笑ったりせず、すごく真剣に話を聞いてくださって、とてもありがたいです。私がやりたいことを汲み取って、すっと演じてくださることが何度もあって、何も遠慮せずに演出できる、器の大きい方です。

 

三鷹市芸術文化センター星のホールで上演した『病室』(2021年7月)に、用松さんも安川さんもご出演いただきました。公演時のエピソードがあれば教えてください。

用松 稽古の時に小野ゆたかさんが、よく笑っていたのが面白かったです。僕と渡辺裕也さんと小声で話している一番初めのシーンで、「これはなんだ?」って言いながら吹き出したりしてましたね(笑)。

石黒 愉快な方が多くて、皆さんよく笑ってました。

安川 個人的には、今まで演劇をやってきた10年位の中で、一番リラックスして演技ができた回が『病室』にありました。それまでは、ずっと緊張して舞台に立ってたんですけど、「なるほど、こうやって立つんだ!」って。

石黒 すごい!

安川 「私の好きな俳優さんたちは、どうやって芝居しているんだろう。」ってよく考えることがあったので、それがちょっとつながった気がしました。ただ、一番リラックスした回の、その次の回はとても緊張しましたけど(笑)。

病室』2021年7月/三鷹市芸術文化センター星のホール/撮影:福島健太
病室』2021年7月/三鷹市芸術文化センター星のホール/撮影:福島健太
病室』2021年7月/三鷹市芸術文化センター星のホール/撮影:福島健太
病室』2021年7月/三鷹市芸術文化センター星のホール/撮影:福島健太
 

劇団普通は茨城弁での芝居を作っておられますが、石黒さんの思う、茨城の県民性、空気感などあれば教えてください。

石黒 いい意味でも、悪い意味でもすごく素朴です。私の作る芝居ではマイルドですが、生粋の茨城弁はちょっと怒っているように聞こえたり、短気に見られたりすることもあります。ただ、実は優しくて裏表がない。県外の人が来た時も、「どっから来た?」と話しかける言葉が、ぶっきらぼうに聞こえるかもしれないですが、「じゃあ、これやるよ。」と親切にしてくれたりと、内心は皆、優しいです。私も子どもの頃は、年配の世代は怖いなって印象があったのですが、大人になってからだんだんと、優しさとか温かみが分かってきて、それも茨城弁の芝居をやってみようと思ったきっかけですね。

 

お二人は茨城弁で演じて大変なことなどありますか?

用松 言葉自体はあまり標準語と変わらないですが、イントネーションが違っていることが多いですね。「柿」と「蠣」や、「箸」と「橋」みたいに、アクセントの付け方が標準語と逆になっていることがあります。

石黒 なので、「雨」と「飴」とかも、標準語の発音が茨城県民にはわからないので、後天的に学習するしかないですね。ただ、アクセントとイントネーションが違うだけで、台本の字面は標準語と変わらないことも多いです。

安川 劇団普通の稽古では、石黒さんに脚本を録音してもらって、役者はそれを聞いて茨城弁の発音などを覚えていくんです。

用松 寝る前にも聞いてるって言ってたよね?

安川 そうです。寝る前に聞くと、よく眠れます(笑)。

一同 (笑)。

石黒 皆さん、すごくよく聞き込んできてくださるので、方言に関しては、ほとんど直すことはないですね。他の役者さんが話しているセリフも聞いてくださっているので、茨城弁の引き出しも増えていて、自在に操れるようになってきているように感じます。

 

用松さんは北海道、安川さんは神奈川県出身ですが、普段地元の方言が出てしまうことはありますか?

用松亮さん
用松亮さん

石黒 普段は出ないですが、母親とか、地元の人と話すとすぐ出てしまいます。上京して、周りに指摘されてから意識するようになって、それから少し標準語を練習するようになりました。

用松 僕はあまり方言を意識したことがないですね。北海道弁自体が、いろいろな方言が混ざっているらしく、あまり気にならないのかもしれないです。

安川 私は方言に憧れがあります。父が青森出身で、母は奄美大島出身なんです。なので、いとこが家に遊びに来たりすると、みんな奄美弁で話すので、それがうらやましいと思ってました。その影響か、自分なりの変な訛り方が癖になってしまって、たまに「日本人ですか?」って聞かれたりします(笑)。

 

「劇団普通」という劇団名の由来を教えてください。

石黒 旗揚げ公演を行うにあたって、いろいろと考えたんですが、まず「誰でも読める」「口に出して言いやすい」この2つは覚えていただくのに必要な条件だなと思いました。次に、漢字四文字の劇団名に憧れていたので、試しに「普通」って書いてみたら、いい感じになったので、「劇団普通」にしました。ほかにもカタカナの名前など候補はあったんですが、ちょっと格好良すぎたのでやめました(笑)。

 

お芝居を始めたきっかけがあれば教えてください。

用松 兄が高校で演劇部に入っていて、僕が中学1年の時、兄の舞台を観に行ったんです。釧路市の高校の合同公演でしたが、それがすごく面白くて、演劇に興味を持ち始めました。それがきっかけで、高校、大学と演劇を続けましたね。あまり勉強しなくても済むかなと思って(笑)。

安川まりさん
安川まりさん

安川 私は母親に勧められて、3歳から子役をやっていたんですが、最初は作家とか漫画家とかに憧れてたんです。だけど、お話を考えてみても、ちゃんと完結できたことがないし、作文を書いても、絵を描いても全然コンクールに入賞しなくて(笑)。ただ、演劇だけは褒められている実感がありましたね(笑)。あと、弟がいるんですけど、稽古に行ったり、オーディションに行くときだけはお母さんを独り占めできるのが嬉しくて(笑)。

石黒 私は社会人になってから演劇を始めました。当時は、パソコン関係の仕事をしていたので、「体を動かしたいな。」「声出したいな。」と思って(笑)。その頃、松尾スズキさんのエッセイを読んでいて、「なんか演劇って面白そうだな。」と思い始めていたので、インターネットで演劇教室を探して、体験参加してみたんです。最初は、一日だけ参加するつもりだったんですが、面白くて、あれよあれよとのめり込んでしまいました(笑)。

安川 面白いきっかけですね(笑)。

石黒 その教室が本当に自由で、1年に2回ワークショップ公演があるんですけど、通っていた最後の2年間、私はその公演には出演せず、太田省吾さんの戯曲の最初の一節を、ずっと稽古していました。同じシーンを「まだできないなあ。」なんて言いながら(笑)。

用松 え、どのくらいの長さの戯曲なの?

石黒 本当は何十ページもある脚本なんですけど、最初の8ページくらいを、「今のシーン、ちょっとよくわからないな。」と、何度も何度も稽古してました。それが楽しかったです(笑)。

 

石黒さんが初めて人前で演技をしたのはいつですか?

作・演出の石黒麻衣さん
石黒麻衣さん

石黒 教室に通い始めたのが、2006年の3月くらいで、その年の7月にワークショップ公演として、鴻上尚史さんの「スナフキンの手紙」を演じたのが初舞台です。それもすごく楽しかったです。演劇って一人でもいなくなったら大変じゃないですか。だから、厳しい審査を経て、選ばれた人だけが人前に出るんだと思っていたので、先生から「出ていいよ」と言われて、役まで貰えて、「こんなに信頼してもらえるなんて!しっかりやらなくちゃ!」と思ってました(笑)。

用松 セリフはたくさんあったの?

石黒 ありました。あと、衣装の早替えが7回位ありました。

安川 7回!?

石黒 着込める衣装は中に着たりして、一生懸命自分なりに工夫しました。楽屋が無かったので、幕と壁の間の50センチくらいの隙間で、幕を揺らさないように必死に着替えたり(笑)。

一同 (笑)。

 

石黒さんが作品を作る上で、大事にしていることがあれば教えてください。

石黒 まずは、少しでもお客様に楽しんでいただきたいって気持ちが、第一です。次に、作意としてあるのは、リアリズムです。劇団を作って以来、リアリズムを自分なりに消化して、どんな風に表現していくかということだけに、費やしてきました。その集大成が『病室』の初演(2019年9月/スタジオ空洞)で、やっと自分なりの手法みたいなものが出来上がったなと思いました。これからもリアリズムを大事にして、慢心せずに、嘘が無いように作品を作っていきたいです。

 

最後に、お客様にメッセージをお願いします。

左から用松亮さん、石黒麻衣さん、安川まりさん

安川 ふらりと、いろんな世代の方に観に来ていただけたら嬉しいです。石黒さんの世界観を体現できるように頑張りますので、お待ちしております。

用松 単純な話の流れだけじゃなく、それぞれが腹の内に思ってることがにじみ出てくるようなお芝居だと思います。石黒さんの描く、古い映画のような、茨城の田舎の雰囲気を、ぜひ感じに来てほしいです。

石黒 とにかく楽しんでいただきたいです。身近な題材を扱っているので、「自分にも通じるところがあるな。」とか、「こんな家族関係もあるんだ。」と、気軽な気持ちで観に来てほしいです。誰かが喫茶店や、バス停で会話しているのを覗き見るような気持ちで、「珍しいものを観たな。」と、お土産を持って帰っていただけたら嬉しいです。

 

ありがとうございました。

 
インタビュアー 森元隆樹(当財団 演劇企画員)
2022年11月 三鷹市芸術文化センターにて

劇団普通『風景』