小松台東インタビュー

公開日 2018年03月23日

小松台東インタビュー

何気ない会話がいつしか、人間関係を見事に浮かび上がらせていくその手腕に期待が集まり、
舞台にテレビドラマにと、数多くの執筆依頼が寄せられている、劇団『小松台東』の松本哲也さん。
劇団として2年半ぶりとなる新作公演を前に、作・演出・出演の松本哲也さん、出演の山田百次(ももじ)さん、
井上みなみさんに、お話を伺いました。

 

劇団として2年半ぶりの新作、タイトルは『消す』。なかなか強い言葉ですね。

松本哲也松本 漠然と、これまでの「小松台東」とは、少し雰囲気の違うものにしたいと考えながら作品の構想を練っていた時に、ふと、自分自身が、実の父の存在を言い訳にして生きてきたなという思いに、行き当たりまして。何か上手くいかないことがあると、父のせいでこんな風になってしまったんだという思いが、必ず頭をよぎるというか。それはきっと、他人には簡単には分かってもらえないような、自分にとって、仕方のない感情ではあるのだけれど、この作品を書くことで、もう父への、そんな言い訳をしたくないなというのがあって。だから今回は、息子が、なんとかして父親を言い訳の材料にすることを無くす、すなわち、その思いを「消す」物語にしようと思い立ったんです。だから作品自体も、今までと大きく変えようとは思っていないのですが、今までの劇団のカラーとか、印象とか、イメージといったものを、自然な形で「消す」ことができたら、という思いも、タイトルに込めたように思います。

 

井上みなみさんの役どころは?

松本 「父親を言い訳にするのを止めるまでの過程を描く」という私の思いを、若い女性である、井上みなみさんに託したいなと思っています。私の感情は「息子が父親に」ですが、それを作品として描く時に「娘が父親に」という関係性にして、書いてみたいと思ったんですね。井上さんは、若いのにとてもしっかりしているので、複雑な親子関係を、しっかりと担って、演じてくれるような気がしています。

 

山田百次さんは、どういう役でしょうか。

山田百次松本 山田百次は、井上さんが演じる女の子の父親の、弟です。だから井上さんは、山田百次の姪っ子ということになりますね。ただ、井上さんの父と母は結婚していない。そして、山田百次演じる弟と兄、この兄の役は瓜生和成さんにお願いしようと思っているのですが、この兄弟にはどうしても拭い去れない感情のしこりがある。それは、弟が生まれてすぐに母親が死んでしまったこと。兄は、何かあるごとに「お前のせいで、かあちゃんは死んだ」と口にし、弟は、兄のせいで自分はこうなったんだと、兄を言い訳にして生きている。今まで、山田百次には、「小松台東」に3回出演してもらっていますが、いつも『動の山田百次』といった感じの役が多かったので、今回は『静の山田百次』をお見せしたいなと思っています。

山田百次(以下、百次) おっ、いいっすね(笑)。本当のところ、俳優として注目してもらえるようになったというか、いろいろな劇団から出演依頼をいただくようになったのは、松本さんの作品に出演するようになってからなんですよね。松本さんは宮崎の出身ですが、僕も青森の出身で、南と北、両極端ではありますが、二人とも田舎の出身で、だから松本さんの芝居によく出てくる田舎のどうしようもない人とか、そういう人間が背負っているやるせなさとかはよく分かります。今回もそういう人の役になりそうなので、「よし、任せろ!」という思いが、すごくありますね(笑)。

 

井上さんは、「小松台東」の舞台には初出演ですね。

井上みなみ井上 星のホールで上演された『山笑う』(2017年5月)を観た時に、「こういう芝居が観たかった!」と強く思ったんですね。そうしたら、オーディションを実施するというお知らせを目にしたので、「よし参加するぞ!」と。「できれば出演したいぞ!」と(笑)。とにかく松本さんが描く、会話の細かいやりとりや、会話の流れの中でお客さんがつい笑ってしまうようなやりとりとか……、その笑わせ方のセンスも素晴らしいなあと。

 

オーディションに参加されてみて、いかがでしたか?

井上 ワークショップ形式のオーディションだったのですが、とにかく松本さんの舞台作りの視線が、本当に面白くて。「舞台の外側から見て、どの配置に自分がいたらいいか」とか、「見えている立ち位置だけでなく、その場の空気の中で、どのポジションにいたらいいか」ということをすごく仰って。私は俳優として、そこにすごく面白みを感じて、オーディションを受けている最中も、ずっと「出たいなあ、出たいなあ」と思っていました(笑)。

 

ご覧になった『山笑う』。百次さんも、松本さんも出演していらっしゃいました。

小松台東インタビュー井上 まずは同じ女性俳優として、同じ劇団(青年団)の先輩でもある荻野友里さんの演技を、すごく憧れながら観ていたのですが、それにしても百次さんはすごかった!(笑)。なんであんなに自然に、そしてあんなに激しく、酔っぱらい続けることができるのか(笑)。いったいこの人は、何人分のエネルギーをこの舞台に注いでいるのだろうと(笑)。

松本 百次はね、お客さんには、感覚だけで演じてるように見えるんだけど、実はものすごく考えて演技していて、だけどそう見えないというのが、何よりすごいんだよね。考えた上で、感覚的に演技しているように見せるというのは、本当に難しいことなんだよね。

百次 そんなに褒めてもらえるんなら、今度、酔っぱらいの演技のワークショップでもやろうかな(笑)。

井上 そして松本さんも、出てくるだけで、場の空気を一気に変える力がすごくて、急に和やかにしたり、逆にピーンと張ったりとか、舞台上の空気を操る力がすごいなあと。今回、百次さんに、荻野さんに、瓜生さんに松本さんと、素敵な俳優の方々と共演できるのが、本当に嬉しいですね。

 

今回も、宮崎弁のお芝居とのことですが、毎回、松本さんが宮崎弁でセリフを吹き込んで、役者の皆さんに渡すそうですね。

小松台東インタビュー

松本 そうですね。でも、宮崎弁を正確に喋ってもらうことが目標ではないので、会話が成立していたら、イントネーションは気にならないです。逆に、会話が成立していないと、イントネーションのおかしいところばかりが気になってしまうという、悪循環を生むことがあります。だから、すごくいい感じに会話が進んでるなあと思って聞いていると、「あれ?百次、今、津軽弁で喋ってない?」という時とかあるから(笑)。

百次 それ、よく言われる(笑)。

松本 でも、それでいいんだよね。イントネーションに囚われすぎると、セリフは言い合ってるんだけど、全然会話に聞こえなくて、ただ音が行ったり来たりしているだけになってしまって、そうなると、芝居自体が全くつまらないものになるから。だからまずは、しっかりと会話してもらえればと。宮崎弁に近づけていくのは、二の次なんです。

百次 松本さんの宮崎弁芝居に3回出させてもらってるんで、俺はもう、自分の宮崎弁はネイティブだと思って喋ってるから(笑)。誰がなんと言おうと、たとえ津軽弁に聞こえようと、ネイティブの宮崎弁だから(笑)。もちろん練習するのは大事だけど、最終的には疑わずに喋るようにしてる。そうしないと「あれ?俺、今、宮崎弁ちゃんと喋ってるかな?」ということばかり気になって、芝居が壊れちゃうからね。

井上 わかりました。ありがとうございます。頑張ります!

 

今回の「消す」。どんな作品にしたいですか?

松本哲也松本 タイトルや人物設定を読んでいただくと、もしかすると、暗くて重々しそうな感じがするかもしれませんが、舞台全体を包む空気感としては、軽やかさを意識したいと思っていて、お客さまが、ついにやにやと、笑いながら観られるような作品にしたいなと思います。どこか少しだけ屈折した愛情表現でしか気持ちを表せない大人たちがたくさん出てくるのだけど、根底にある優しさや、他人への思いは変わらないという、人間模様を描けたらなと思います。そして実は偶然、2月に1カ月間、仕事で宮崎に滞在するので、今一度、故郷の宮崎をしっかりと肌で感じて、作品に反映できればと思っています。

 

では最後に、お客さまへのメッセージをお願いします。

小松台東インタビュー井上 たくさん舞台がある中で、お客さまに選んでもらえるような、素敵な作品になるように、頑張りたいです。松本さんの会話劇の面白さを壊さず、しっかりと役割を担いながら、楽しんでできたらと思います。

百次 松本さんの芝居は、人間がきちんと描かれているので、年配の人から、若い人まで、幅広く、たくさんの人に観てもらいたいですね。そして僕自身は、松本さんからどんな人物役を与えられても、しっかりと演じ切れるようにと、思っています。

松本 いい脚本を書いて、しっかりと演出をすることはもちろんなのですが、まずは、今回出演してくれる、素晴らしい役者たちの面白さを、お客さんに伝えたいというのが、第一にあります。舞台という、生でしか味わうことにできない醍醐味を、感じてもらえたらと思います。ぜひ、観に来てください。

 

本日はありがとうございました。

インタビュアー 森元隆樹(当財団 演劇企画員)
2018年 1月16日 こまばアゴラ劇場ロビーにてインタビュー

小松台東『消す』公演ページ

小松台東『消す』バナー