公開日 2017年04月04日
何気ない会話がいつしか、人間関係を見事に浮かび上がらせていくその手腕に、
舞台にテレビドラマにと、数多くの執筆依頼が寄せられている、劇団『小松台東』の松本哲也さん。
2014年に初演され好評を博した『山笑う』の再演を前に、作・演出・出演の松本哲也さん、
出演の川村紗也さん、荻野友里さんに、お話をうかがいました。
この作品は、川村さんが作られた演劇ユニット「僕たちが好きだった川村紗也」の第一回公演(2014年12月/新宿眼科画廊)として、松本さんの作・演出で、初演されました。
川村 ユニットを立ち上げるにあたって、少人数の会話劇をやりたいなと思ったんです。松本さんの舞台は数年前から見ていて、素敵な会話劇を書かれる方だなと思っていましたが、いよいよユニットを立ち上げようと思っていた頃に、「小松台東」の『勇気出してよ』の初演(2014年10月/下北沢OFF・OFFシアター)を見て、とても面白かったので、見終わったあと「公演をやりたいんです!脚本・演出をお願いできませんか?」とお願いしたら、OKをもらえたんです。声をかけたのが10月で、そこから劇場を押さえて、役者さんに声をかけて、12月に公演ですから、我ながらよくやったなあと思います(笑)。
荻野 川村さんから「自分のユニットを作ったから、是非出演して!一緒にやろう!」と声をかけられたのですが、実は私は、松本さんの舞台を見たことが無かったんです。でも、旧知の川村紗也という女優のことは信じていたので「松本さんの舞台、すごく良いんだよ!絶対気に入るから!」と熱弁を振るわれたので、彼女がそこまで言うんだったらと(笑)。そこから2ヶ月で本番だったので、何というかお祭り騒ぎという感じで(笑)、一気に駆け抜けた感じでしたね。なんと言っても、彼女が初めて立ち上げたユニットでしたし、しかも公演まで時間がないしで、とにかくこの公演を成功させるために力を出し合おうと、集まった皆が言葉には出さないけど、そう思っていたような気がします。
松本 僕は脚本・演出を頼まれて、最終的には出演もしたんですけど、結果として役者さんは、初めてご一緒する人ばかりになりました。ただ偶然ですが、荻野さん以外は全員面識があって、僕の芝居を見たことあるという人が多かったので、いつも通り、宮崎弁で書かせていただきました。実は、自分の劇団以外に書くのは初めての経験だったのですが、筆は割と早く進みましたね。
『山笑う』というタイトルはどのように決まったのでしょうか?
松本 川村さんが決めましたね。
川村 私タイトルだけはうるさいんですよ(笑)。以前所属していた劇団の時も、作家からタイトルの候補が出ても「うーん、しっくりこない」と(笑)、何度も言いました。自分が作家でもないのに(笑)。ただ、本当に勘でしかないんですけど、タイトルがすべてを決めると思っているので、今回、松本さんにもいくつかタイトル案を出していただいたのですが、最終的に、偶然ふっと見つけた『山笑う』という言葉の響きが気に入って、これにしてもらいました。
俳句の、春の季語のようですね。
川村 実は、きちんとした言葉の意味は知らなくて、あとで調べました(笑)。でも知れば知るほど良い言葉だなと思って、すっかり気に入ってしまい、これしかないと。
※『山笑う』・・・俳句で、草木が萌え始めた、のどかで明るい春の山の形容
初演は12月でしたが、今回は5月です。『山笑う』というタイトルに、よりふさわしいかもしれませんね。
松本 そういえばそうですね。実は、僕自身もその言葉を知らなかったんです。でも、そのタイトルを頭の片隅に置きながら書き始めていったら、あぁ、良い言葉だなと思いましたね。
初演を振り返ってみて、いかがですか?
松本 一緒にやるのが初めてのメンバーでしたが、とにかく楽しかったです。川村さんのユニットの第1回を成功させようと結束していた感じでしたね。
荻野 稽古中も本番中も、毎日呑んでいたイメージしかない(笑)。稽古も楽しいし、やがて台本が出来上がってきて本読みをして「あっ、いい話だな」と。で、本当に心から、いい話だと思ったので「さて、この話のどこに、私の毒を入れていこうかな」と(笑)。まぁ、毒を入れるというのは、ただの自己満足なんですけど(笑)。でも最終的には、脚本通りにやるほうが面白く感じて、毒を入れるところなんて全然なくて。あれ?そういう意味では、脚本に負けたのかしら?(笑)。まあ、それは別として、“(脚本家の書いた)セリフではあるのだけれど、そのセリフを舞台上で、自然な会話に出来る人が多かった”ので、とにかく楽しかったですね。
川村 私は、何せ自分で立ち上げたユニットだったので、役者として舞台に上がること以外のやるべき事が多すぎて、それにいっぱいいっぱいで、一番頑張るべき『役者』の部分が頑張りきれなかったんではないかという後悔があったんですが、今考えると、なんて楽しかったんだろうと(笑)。
荻野 偶然なんですけど、集まった役者さんが、主宰者だったり、制作や照明などの裏方をやったことがあったりと、舞台を作る苦労を知っている人が多かったので、何も言わなくても「大変だよね」とわかってくれて、さりげなくフォローしている人が多かったですね。
川村 それだ!!それに助けられたんだ!!(笑)
荻野 それもあって、皆で作ったという感じが強かったですね。
川村 今でも覚えているのは、千穐楽が終わった後のバラシの時に、私がアタフタしていたら、荻野さんがいつの間にか私の荷物をほとんど片付けてくださっていたんですよ(笑)。そんなことってあります?(笑)。ない、絶対ない(笑)。もう感謝しかなかったですね。
その初演を拝見しましたが、とても素晴らしい舞台でした。
荻野 ほんと、評判はよかったですね。なんだろう、家族の話だったので、公演が年の瀬だったというのもあって、もうすぐ帰省するという人も多くて、お客様の気持ちにマッチしたのかもしれませんね。
松本 いい話だと言ってくださる人が多かったのですが、恐らく、僕も含めて、役者全員が「いい話でしょう」という感じをお客さんに出すことがない人ばかりで、逆にそんな風に「いい話」だと伝わることに少し照れるというか、恥ずかしいという感覚を持っている人ばかりだったから、それが良い塩梅で、お客さんに届いたのかなあと思います。自分の劇団である「小松台東」では、その感覚はとても大事にしているので、それを共有出来る人ばかりだったので、だからこそ、お客様の胸に届いたのかもしれないなと思いますね。
川村 お客さんの反応がとても良かったのは素直に嬉しかったですね。ただ先にも言ったように、私自身が、役者以外の事にいっぱいいっぱいだったので、何も余裕がない中で、多くの人に喜んで頂ける作品を生み出せたのは有難かったですね。
再演にあたってどのように臨まれますか?
松本 初演から2人キャストが変わりますが、僕の芝居によく出てくれている、信頼できる男優さんの出演が叶いました。台本に関しては、大きく変更することはしないつもりですが、今読み返してみると、脚本として少し“お行儀が良いなあ”と感じたので、稽古の段階で少しだけ、“行儀が悪い”と言うほどではないですが、“整い過ぎていない”人間関係の荒々しさというか、生々しい部分も入れていけたらなあと思います。
荻野 再演が決まったときに、松本さんに「初演と同じ芝居はさせないよ。色々もっと出してもらうよ。」と言われたので、これは望むところだと(笑)。
川村 松本さんが、「少し行儀悪くしていくよ、整い過ぎないようにするよ。」と仰っているのを聞いて、すごく良いなあと。これはまた面白くなるぞという思いを強くしました。とにかく信頼できる役者さんばかりというのが本当に大きくて、その中で、私も初演と同じではない、色々な味を出していけたらと思うと、ワクワクする気持ちしかないです。
では最後にお客様へのメッセージをお願いします。
松本 見終わったあと、懐かしくて、優しい気持ちになれる作品だと思います。その上で、初演よりも更に、生々しく人間を描いていけたらと思っていますし、そういう意味での“座りの悪さ”のようなものを出していけたらと思っています。今回の再演に『山笑う』に対してのすべてのエネルギーを注いで、「もうこれがベスト、もうこれ以上の『山笑う』はない、もう再演しなくてもいい」と思えるくらい、突き詰めて稽古していって、いい作品にしたいと思いますので、ぜひ、お見逃しなくということで(笑)。ご来場をお待ちしております。
本日はありがとうございました。
インタビュアー 森元隆樹(当財団 演劇企画員)
12月13日 三鷹市芸術文化センターにてインタビュー