『MONO』インタビュー

公開日 2019年05月25日

『MONO』インタビュー

人間関係の可笑しさや哀しさを、軽快なテンポで描く会話劇で定評のある劇団『MONO』。

30周年を迎える今、劇団初となる「コント公演」の開幕を前に、
作・演出・出演の土田英生さんと、出演の奥村泰彦さん、高橋明日香さんに、お話を伺いました。

 

今回、30周年記念公演として「コント公演」を選ばれた理由は?

土田 今までにも三鷹のホールでは何度か公演をさせていただいてきましたが、今回30周年を迎えるにあたり、何か特別感を出したいなと思い、新しいことができないかなと模索していく中で、「コント公演」にチャレンジしたいと思うようになりました。

 

劇団として「コント公演」は初めてですか?

土田英生さん
土田英生さん

土田 今から10年前、20周年の時に、チェーホフの戯曲をベースに書いた、笑いに特化した公演『チェーホフを待ちながら』(2009年10月/AI・HALL)を上演したことはあるのですが、その時は「コント公演」とは銘打っていませんでしたので、今回が初めてとなります。

奥村 僕はその公演に出演しているので、今回「コント公演」と聞いた時に、すぐに『チェーホフを待ちながら』を思い出しました。あの時は、とにかく、緊張して舞台に立っていたのを覚えています。

土田 それはコント公演だからじゃなくて、奥村がものすごく長いセリフを言う役だったからじゃないかな。ほら、一人で意味が無いことを延々と喋るシーンがあったじゃん。

奥村 ありましたねえ。ほんと大変でした。

高橋 私は、今回初めて「コント公演」に挑むこととなります。大変だろうなあと思う半面、劇団員としてMONOの皆で作る、集団としてのコント作りに、とてもワクワクしています。

土田 実のところ、僕は笑いが一番好きなんです。劇団を作った時も、笑いを中心にするか、物語を中心にするか、結構悩んだんです。ただ、当時、同じ大学内(立命館大学)に故林広志(こばやしひろし)という男がいて、彼が作るコントの台本が本当に面白かったので、笑いでは彼に勝てないと思い、物語を中心にした芝居を志すようになりました。

 

故林広志さんとは、後に『GOVERNMENT OF DOGS(ガバメント オブ ドックス)』というコントユニットでご一緒されていましたね。

土田 三鷹のホールでも公演させてもらいましたね(『Refresh!』/2008年10月)。そんな感じで、僕はもともとお笑いがやりたかったんですが、昨今の芸人さんに多い「一発芸的な笑い」を作るのは好きじゃなくて、「上手な役者がきちんと演じた時に生まれる笑い」が好きなんですよ。演劇をしっかりとやっている人が作るもののほうが、断然面白いと僕は思っているんです。そういう意味では、今回は一番やりたかったことを、満を持してやるという感じがします。

 

MONOの舞台も、会話の中から自然に生まれる笑いに満ちていますね。

土田 そうなんです。ただ、今回は「コント公演」と銘打ちますから、いつもよりも逃げ道が無いなあと(笑)。物語だと、笑いが起きようが起きなかろうが進んでいけますし、仮にウケなくても「別に笑わせようとしてるシーンじゃないよ」という顔をして続けていけばよいのですが、「コント公演」ですから、笑いが起きないと怖いなあというのはあります(笑)。

 

自分のセリフで大きな笑いが起こると、役者冥利に尽きるという感じですか?

奥村泰彦さん
奥村泰彦さん

奥村 いやあ、快感とか言う人もいますが、僕としては、ウケると「肩の荷が降りる」って感じですね。

土田 またまた、そんなこと言って(笑)。彼は間違いなく、快感を感じてるはずです(笑)。

奥村 そんなことないですって(笑)。というか、MONOの公演において、僕は比較的、笑いを担う役どころが多いんですよ。

土田 そういえば、ちょっと他人とずれてたり、間が抜けてたりする役が多いですね。

奥村 「しっかり演じさえすれば、ここは笑いが来るはずだ」というシーンが多くて、緊張するんですよ。だから、取れるはずのところでしっかり笑いが取れると「よし!」と(笑)。そういう意味で、肩の荷が降りる感じなんです。

高橋明日香さん
高橋明日香さん

高橋 先輩劇団員の奥村さんでもそう思われるんだなと、ちょっと「コント公演」に緊張してきました(笑)。

奥村 「ここは鉄板でウケる」と思ってたところで笑いが来なくて、そこから後のシーンがガタガタになったこともあるよ(笑)。

高橋 私も、舞台上で上手くいかなかった時は、出番が終わって舞台袖に引っ込んでも、演出家の土田さんとは目を合わせないようにします(笑)。

土田 今日はあまり上手くいってないなと感じる時は、楽屋のモニターの前で、大騒ぎしてたり、歩き回ったりしてるから、近寄りにくいかもしれませんね(笑)。

奥村 土田さん、自分も出演してるシーンでは、時々、舞台上で演出家の目になってる時がありますもんね(笑)。

土田 目でね、「奥村、もうちょっと手前に寄ってみようか」と立ち位置の変更を促したりね(笑)。意外と伝わるんですよ。

 

舞台上でのアイコンタクトですか。Jリーグ『ヴィッセル神戸』のイニエスタとビジャみたいですね。

土田 そんな凄いサッカー選手に例えなくても(笑)。なんか公演のハードルが上がってしまう気がするなあ(笑)。

 

『MONO』インタビュー

 

そんな「コント公演」のタイトルは『涙目コント』ですね。

土田 普段から僕は、「笑いと笑いじゃないものの境界線を書きたい」と思っているんです。例えば、お葬式のシーンで、誰かが足が痺れて、立とうとした瞬間に転んでしまったとする。そんな時、それ一連の動き自体は滑稽で、笑ってしまうシーンになるかもしれないけれど、そこまでに、その人と故人の関係を丁寧に書き込んでいると、足が痺れているということ自体が悲しいシーンに感じるかもしれないと思うんです。そんな風に、表現というのは見え方によって、人間模様がまったく変わってくるんですね。だから「コント公演」ということで笑いを作ってはいくのだけれど、今まで演劇で培ってきたものを生かしていきたいし、「コント公演」と謳っているのに泣けてしまうというような作品に仕上げたいなと思い、『涙目コント』というタイトルにしました。

奥村 『涙目』のところが、芝居の部分ってことでいいのかな。

高橋 なるほど!

土田 まあ、そうかもしれないね(笑)。

奥村 この歳になると、なかなか「涙が出るほど笑う」ってことないけど、「涙目になるほど笑わせます」って意味でもいいのかな?

土田 それはハードル上げ過ぎでしょ(笑)。やめとこうよ(笑)。

 

MONOは2003年に2人の女優さんが退団されて以来、ずっと男性5人の劇団でしたが、昨年春に、男性1人、女性3人の新人が加わり、9人体制になりましたね。

土田英生さん

土田 この春の公演が、新人たちが入団して2回目の劇団本公演だったのですが、観に来てくれた僕の友人が「皆、昔からずっと一緒にやってるみたいだった」と言ってくれて、嬉しかったですね。

奥村 男優5人だけで15年くらいやってましたから、僕自身は、50歳前後の男5人が作り続ける舞台ってのも、なんかいいなあと思ったりしていたのですが、新人の人たちが入ってきて、新鮮な緊張感が生まれたような気がして、これはこれでいいなあと思っています。

高橋 入団する前にも、4回ほど出演させていただいていたのですが、入団してからのほうが、MONOのお兄さんたちに、より深く接してもらえてるように感じて、嬉しいです。作品の解釈や、役作りについてなど、真剣に語ってくださったりすると「ああ、劇団員になったんだなあ」と実感が湧きますね。

 

土田さんたちは「MONOのお兄さんたち」と呼ばれているんですね。

土田 ええ、最近(笑)。気を遣ってもらっています(笑)。

高橋 そんなことないです!(笑)。あくまでも自然にそう言うようになりましたね。

 

劇団が30年続いた秘訣は、どこにあると思いますか?

土田 続けるということに関して、あまり決めごとをせずに来たのがよかったのかなと思います。例えば「3回後の公演で、集客数が1,000人を超えなかったら解散」とか口にしたりする劇団とかありますが、そういうことをして来なかったというのが、続いた秘訣なのかなとも思いますね。

奥村泰彦さん

奥村 ここ数年、公演が年1回のペースで、稽古期間も含めた2か月間くらいしか会わないという、その距離感が良かったのかもしれません。残りの10か月、他のメンバーが何をしてるのか、プライベートなことはほとんど知りませんし。だから、1年に1回、新鮮に会えているのかもしれませんね。

土田 今年は3月に公演して、8月に三鷹。年2回だね。もしかしたら、せっかくのバランスが崩れて、劇団、危ないんじゃない?(笑)。

奥村 いやいや、そんなことは(笑)。まあ、新人たちも皆、同じような距離感を好む人たちばかりに思うので、やりやすいですね。

 

少し違った質問になりますが、30年近く、ずっと続けてきたことはありますか?

高橋明日香さん

高橋 割と長く続けているのは、ヨガですかねえ。すぐに緊張するタイプなので、公演前にヨガをすると、集中できるし、体も心も軽くなる気がします。

奥村 僕は、舞台美術ってことになるんでしょうか。大学の演劇サークル時代に、舞台美術をやる人が誰もいなかったんで、ある時、仕方なく担当したんですが、割と評判もよかったんで、なんとなくずっと続けてきましたね。本当に、師匠も誰もいなくて、「引き受けたからには、やりきろう」という思いだけで続けてきたように思います。

土田 僕は・・・喋ることですかね(笑)。昔から、喋ることが好きですね。先日、小学校の卒業アルバムを見返した時に、皆、修学旅行のことなんかを書いてるんですが、「いつものように土田君の周りに集まり、土田君の話を聞いていた」とかって書いてる人が何人もいるんですよ(笑)。ああ、昔から喋ってたんだなあと。

 

最後に、お客様へのメッセージをお願いします。

『MONO』インタビュー

高橋 できるだけいっぱい笑いが取れるように頑張ります。新人4人も含め、集団として笑いが作れたらいいなと思います。

奥村 タイトルどおり「笑いながら、ふと涙が出る」というような、ちょっとストーリー性のあるコント公演になると思います。いつものMONO公演を観に来る感じで、気軽に楽しんでもらえたらと思います。

土田 MONOのアンサンブル的な持ち味はしっかりと生かしつつ、コントですので、より自由な発想で、今までとは違うMONOの姿を見せられたらと、やったことがなかったこともやれたらと思っています。今までMONOを観てくださってきた方も、初めてという方も、楽しめる作品にしたいと思います。ぜひ、ご覧ください。お待ちしております。

 
本日はありがとうございました。
 
インタビュアー 森元隆樹(当財団 演劇企画員)
4月16日 三鷹市芸術文化センターにてインタビュー
 

MONO『涙目コント』公演ページ