『CHAiroiPLIN』インタビュー

公開日 2020年08月10日

『CHAiroiPLIN』インタビュー
 

 2015年に星のホールで、ブレヒトの名作『三文オペラ』を大胆なまでに演出し、
 その圧倒的な想像力に導かれたアイデアに満ちた舞台作りと、
 圧巻のダンスパフォーマンスで、大きな反響を呼んだチャイロイプリン!

 5年ぶりの再演を前に、演出・振付・構成・出演のスズキ拓朗さんと、
 出演のジントクさん、小林ららさんに、お話を伺いました。

 

今回、5年ぶりに『三文オペラ』を再演しようと思われた理由は?

スズキ拓朗
スズキ拓朗

スズキ拓朗(以下 拓朗) ずっと再演したいと思っていたので、念願叶ったっていう感じですね。「よーしこれから劇団として伸びていくぞ!」というスタートを切った記念すべき作品だったので、そこから5年経ってね、僕らがどこまで成長したのかを見てみたいなと。で、あの時は「史上最強の作品ができた!」みたいな感じで喜んでいたんですけど、改めて映像を見てみたら、「いやもっと良くなるでしょ!」っていうところが幾つかあったので、この再演で、この5年の僕らの成長を詰め込んで、更に良い作品として、よみがえらせたいなという思いがあります。

 

劇団全体で、再演への気持ちが盛り上がった感じですか?

ジントク そうですね。今回、どんな作品を三鷹で公演するかについて、結構劇団内で話し合いをしたんですけど、最終的には「三文オペラの再演がしたいね」って、みんなで決めて。

 

初演時の思い出を教えてください。

拓朗 今回も、初演時同様に、僕が主役のメッキースを演じるんですけど、前回は、初日のマチネ(昼公演)の終演後、演技がハードすぎて、全身筋肉痛で、ロビーのベンチで動けなくなったんですよ。劇場の方もすごく心配して、「大丈夫ですか?夜の公演できますか?」みたいに声かけてくださって。で、マッサージの人を呼んでほぐしてもらって、なんとか夜公演に臨んで。骨とか筋とかじゃなくて、もう全身が、あまりにも疲れすぎたんですね。それくらい大変な舞台だったことを覚えています。でも、あの時は若かったんで、次の日には完全復活してましたけど(笑)。

ジントク 拓朗さんは演出も担当していたので、稽古場では僕がずっと拓朗さんの代役をしていたんですけど、演出家としての作業があまりにも大変で、拓朗さん自身が自分のセリフや振り付けを本格的に覚え始めたのが、本番の3日前くらいだったんですよ。

 

拓朗さんも大変だったかと思いますが、ジントクさんも、ご自身の役もありつつの代役ですよね。

ジントク 今自分がどっちの役なのか、一瞬稽古場でわかんなくなっちゃうんですよね(笑)。

 

拓朗さんご自身のセリフや振り付けを覚える日数が3日間しか無かったというのは、大変でしたでしょうね。

ジントク
ジントク

ジントク いや、それがすごくて。ずっと演出家として前から見ているんで、振りを覚えようと思って見ているわけじゃなくても、次の展開も、みんなの動きもわかっているし、だから振り付けを入れ始めると、ぱっとできちゃうんですよ。不思議なんですけど。

拓朗 代役をしてくれているジントクを見て、それよりも良くするためにはどうしたらいいかなって、ずっと見てるんで(笑)。それは僕の卑怯なとこです(笑)。

 

作品全体として記憶に残っていることはありますか?

拓朗 三鷹で最初に上演した公演が『三文オペラ』なんですが、劇場入りして初日までに丸4日と、割と長めの時間をいただいていたので、本当にぎりぎりまで粘って、劇場に入ってからどんどん変わっていきましたね。劇場側が、そういう時間を提供する形で応援してくださったので、僕らも大喜びで、「劇場入ってから、現場でガンガン変えようぜ!」的な。若かったんで(笑)。だから、劇場に入ってから変わりすぎたというか、特に公演の終盤は、劇場に入ってから直前に決めたシーンが多かったんですよね。

ジントク 稽古場ではセットが組めなかったので、劇場でセットを組んでみて「面白いこと、思いついた!」と。

拓朗 もう、舞台監督さんもびっくりみたいな(笑)。

 

劇場内もロビーも、小道具作業やら新しく作ったシーンの稽古やらが同時多発していて、かなりカオスな状態でしたよね(笑)。

全員 (爆笑)

拓朗 粗削りな部分も多いんだけど、作品的に言うと本当にあそこまでしっちゃかめっちゃかにやりたいことをやり尽くそうとしたっていうのは、最初で最後でしたね。舞台監督の人も、その反省を生かして、あの公演の後、ちゃんと先手を打って進行管理してくださるようになりましたしね(笑)。

 

小林さんは、その『三文オペラ』が初めてのCHAiroiPLINへの出演ですね。

小林らら
小林らら

小林 ずっとバレエをやっていて、コンテンポラリーダンスも少しやっていたのですが、初めて自分で情報を調べて、自分から受けに行ったオーディションが『三文オペラ』だったんです。確かに、今思うと、ものすごくカオスだったんですけど、初めての経験だったので、そういうものなんだと思って、ひたすら小道具を作ってました(笑)。稽古も「毎日こんなに長いんだ」と新鮮でしたし、公演日数が長い作品への出演も初めてだったので、「これが普通なんだろうな」と思って。

ジントク いや、あれは普通じゃない(笑)。

小林 実際、自分たちで小道具作るとかも初めてでしたし、だから、いろんなことが衝撃的で、いまだにそれは染みついちゃった感じで。

拓朗 かわいそう(笑)。

小林 でも、おもしろかったですね。全部初めてだったので。何よりもダンスカンパニーなのに、セリフをしゃべっているというだけで新鮮だったんですよ。「セリフ!?」みたいな。

拓朗 歌うシーンもあったしね。

小林 そう、まさか歌うとは思わなかったし(笑)。そして、さっきジントクさんが仰っていたんですけど、拓朗さんがまさにぎりぎりの日程で舞台に立ったんですよ。で、劇場からの帰り道にずっとセリフを練習していて、「こんなぎりぎりにセリフを練習するんだ」って思って。「そういう世界なんだ」って思ったのが、忘れられない思い出ですね。

 

再演にあたり、内容はかなり変更される予定ですか?

拓朗 チャイロイプリンって、再演といっても、すごく変わっちゃうんですよ。昔、『ジャックと豆の木』っていう作品をダンスにした公演があって、それを再演した時に、「再演だから稽古2週間くらいでいけるよね」なんて言ってたら、ほぼ99%シーンが変わって。新作になっちゃったという(笑)。

ジントク いやー、あの再演は地獄だったね(笑)。本当に、2週間、死ぬかと思った。

拓朗 ただ今回は、どちらかというと、そうならないんじゃないかなと思っています。もちろん、初演を超えていけるように、クオリティは上げていくのですが、全体としての構成は、大幅には変わらないと思います。特に、映像とか、劇団「時々自動」による生演奏での曲作りとか、多方面からのアプローチが多い作品なので、あんまりシーンを変えすぎると、いろんな人が困っちゃうので。

ジントク 出演する人数も変わるし、上演時間も1時間55分だったのを、1時間半くらいにシャープにしていきたいなと相談しているので、初演に比べてキュッと締まった作品になるのではと思います。

拓朗 初演は、やや演劇色の強い作品だったので、今回はダンスシーンを増やしていきたいなという思いもあります。皆、ダンスのスキルを上げていますし、ダンスシーンはどんどん作り変えて、作品全体をレベルアップしていきたいですね。

 

今回、ジントクさんや小林さんの役の予定は?

スズキ拓朗

拓朗 よくぞ聞いてくれました。まずは小林ららですが、先日チャイロイプリンに入団しまして、今回が劇団入団後の初舞台となります。5年前の初演は、オーディションを経てのアンサンブル出演だったのですが、今回は主役級の役を務める予定です。先日、本人にそれを告げたら、ものすごく喜んでいました。

小林 まさかすぎて。配役のプランを言われたときに、ちょっと衝撃すぎて、時間経ってから泣いちゃって。

全員 (笑)

ジントク 嬉しすぎて?

小林 もちろんそれもあったのですが、正直「どうしよう」と思って。あまり目立つことを好んでやるタイプじゃないので、ちょっと怖いなあと。ただもちろん、やる以上は、精一杯頑張ろうと思っています。

拓朗 いずれも主役級の、ポリーかルーシーかジェニーの、どれかを配役する予定だよと伝えたんだけど、自分としてはどれをやってみたい?

小林 う〜ん。その三つで言ったらジェニーがいいんですけど(笑)。

ジントク おお!そうなんだあ。

小林 なんとなく、自分的に一番安心して取り組めるような気がしたんですけど、でも挑戦していくとしたら、今まで演じたことが無いような役ということで、ポリーかルーシーかなっていうのは思いますね。

拓朗 それらの役だと歌うシーンもあるのですが、「私、合唱部だったんで、歌は得意です」って言ってたので楽しみですね。

小林 違います!(笑)。「歌とかやってた?」って聞かれたから、「中学校の合唱部くらいしかやったことないです」ってお答えしたんですけど、そしたらこんなことになってしまって(笑)。

拓朗 ジントクは、前回は盗賊団の一人だったんですけど、今回はブラウン警部をやってもらおうと思っています。

ジントク 前回に比べて大きな役ですが、新しいブラウン警部をお見せできたらと思っています。期待してください。

 

そして、初演に引き続いて、生演奏で、劇団「時々自動」のメンバーが参加してくださいます。

拓朗 曲が前回と同じなのか、変更があるのかも、すべてお任せしようと思っています。なによりも、「時々自動」さんの曲や演奏は本当に素晴らしいので、音楽に関して言うと、演出家というよりは、ただただ「どうなるのかな?」と楽しみで仕方ないです。

 

「時々自動」の演奏をはじめ、映像や舞台美術や音響、照明と、チャイロイプリンの舞台は総合力が素晴らしいと思うのですが、どのような制作過程を踏まれているのでしょうか?

ジントク

ジントク 最初に、取り上げた戯曲や小説を読んで、その中で「動きが出る場所はどこだろうね」っていう話をします。つまりここだったら動きになりそうだから、ちょっと立ち上げてみようかっていうピースを作る時間が来るんです。僕らはそれを「プレ稽古」って呼んでいるんですけど。で、やがていろいろなストーリーシーンを作っていって、ダンスシーンも含めてそれらを繋いでいって、それを見ながら演出家である拓朗さんが調整していって、じゃあここはこういう風に繋げていこうとか、新たなダンスを加えていこうとか、全体の大枠を作っていって、そこに映像や音楽が加わって、どんどん方向づけるっていう作り方なのが、多分他の演劇の人たちと比べると、特殊な部分じゃないかと思います。

小林 私は演劇っていうものをやったことがない人だったので、他を知らないんですが、ダンスでいうと、まずダンスのシーンを全部作っていって、それをひたすら練習する感じなので、いろいろ試行錯誤しながら完成形に向かっていくというチャイロイプリンの稽古の進め方は、特殊だなって思いますね。

拓朗 稽古場で、CASTから出たアイデアを、どんどん取り入れることは多いですね。演出家一人では何もできないというか、いろんな考えを集結した方が良い作品になるというのはいつも言ってて。僕が持ってきたプランで稽古を始めても、やってみてつまんなかったらやめるし、やっている最中に「こうしたほうが面白くないですか?」ってアイデアが誰かから出て、面白ければすぐ採用するし、このシーン、自分よりもこの人に任せたほうがいいんじゃないかと思ったら、信頼して任せたりもします。この間なんか、まるまる1シーン、ジントクに任せちゃいました。コンテンポラリーダンスで「コンタクト」って言うんですけど、お互いの体重を乗せあったり、相手の体重の移動を感じながら振りを作っていったりするシーンがあって、その創作は僕よりジントクのほうが上手いということが、ここ5年で分かったので(笑)。「それはもう認めよう、ジントクに作らせた方が早いじゃん」っていう。もちろん最終的な責任は僕が持つんですけど、いろいろな才能を認め合いながら作るというのも特徴かなと思います。

 

劇団員になられた小林さんの得意分野も、今回の作品に反映されるということですね。

拓朗 そうですね。ダンスはもちろん、合唱のノウハウとか(笑)。そこをちょっと習っていけたら。

小林 ですから、歌は!(笑)

拓朗 でもまじめな話、以前『AZUKI』っていう作品を上演した時に、その作品は12人くらい出演する作品で一人一人が重要な役なんですけど、ららちゃんに1シーン任せて、「お面と、この言葉を使って、5分間最高のダンスをやって」って言ったんですよ。そしたらお面を家に持って帰って、猛練習してきて。

ジントク あれは頑張った。ものすごい成長を感じましたね。

拓朗 それを見て、「らら、一緒にやらない?」って。「チャイロイプリンに入らない?」って。その、自主的に自分のやりたいことを持ってくる姿勢が、劇団に新しい魅力を吹き込んでくれると確信しています。

 

チャイロイプリン版『三文オペラ』の見どころを教えてください。

ジントク もともとの戯曲のイメージを膨らませて、舞台上の小道具として使う素材が、段ボールだったりとか、ブルーシートだったり、新聞紙だったりなど、チープな素材をどう美術として盛り込んでいるかを楽しんでもらいたいですね。初演の映像を見返したんですけど、「よくこんなに小道具をたくさん作ったなあ、ある意味スペクタクルだなあ」と、我ながら思いましたから(笑)。

 

小道具は確かに、めちゃくちゃ多かったですね。稽古場にずっと、小さなパトカーがあって、本番でどこに出てくるのかなと思ったら、舞台の後ろのほうをスーッと。1シーン(笑)。

『三文オペラ』
撮影:福井理文

拓朗 段ボールのパトカー(笑)。ゲネだったかな、止まったりしたんですよね。

小林 止まりました!(笑)

拓朗 紐で動いてたんですが、止まったので、もう無理やり引っ張ってね(笑)。懐かしいなあ。

小林 私のオススメする見どころも、異常なまでに多い舞台上の小道具数ですね(笑)。どうか「衣装も大道具も小道具も、全部自分たちで作ったのかなあ」と思いながら見ていただければ(笑)。あとは、キャスティングを聞いて、ダンサーが多い印象なので、ダンスシーンが増えるのかなと思うので、そこはぜひ楽しみにしてもらいたいですね。

拓朗 舞台上の小道具に連動させて答えると、演劇的ないろいろな要素をすべてかき混ぜた公演なので、ダンサーや歌手や俳優の方はもちろん、ぜひ「段ボール業者です」「新聞業者です」という人にも観に来てほしいです。それぞれの方が今まで思っていた歌の概念、ダンスの概念、俳優の概念、そして段ボールや新聞紙をどう使うかという舞台の概念を、良い意味で覆したいという思いでやっているし、「今までこう思っていたけど、こういう角度で観たら全然違うんだなあ。私もやってみようかな。」とか、観た方に新鮮な感覚を持って帰ってもらえたらなあと思います。

 

3人とも初演も出演していらっしゃいますが、再演にあたり、個人的な目標はありますか?

小林らら

小林 私に関して言えば、とにかくダンスしかやったことない人なので、歌もあってセリフもあるという、そこに猛烈に挑戦して。なるべく高い目標を持って臨みたいなと思っています。

ジントク 先ほども出ましたが、今回はブラウン警部の役でして、前回は僕より年上で、コメディチックというか、思わずクスッと笑ってしまうような個性をお持ちの方が演じられていたのですが、あまりそれは意識しないようにしつつも、僕らしいブラウン警部を見つけられたらなと思っていて。

拓朗 ダンスでしょ。

ジントク まあそうだと思うんですけど(笑)。新しいキャラクターというか、自分自身がこういう方向性も持っていたんだなっていうことが見つかるといいなと思っています。

拓朗 僕はとにかく、ダンスですね。今35歳なんですけど、初演時は29歳とか30歳くらいだったんですよ。一番体が動いた時期の自分ですら全身筋肉痛になったので、果たして今回、あの頃の自分に勝てるかどうかワクワクしていますが、実はそれほど不安に思ってはいないんです。ダンスのスキルとか、舞台の経験値っていうのは、正直、5年前の自分には負ける気はしなくて。だから今回は、ダンスを相当頑張りたいというか、変わらず演劇色は全面に出していくんですけど、ダンスもすごいねっていう風になりたいと強く思っています。チャイロイプリンって、ダンスカンパニーって名乗っているんですけど、劇団って思われている部分も多くて、もちろんそれも嬉しいのですが、今回は、過去の自分には負けないという意味でも、自分のソロも含めて、ダンスシーンのクオリティをめちゃめちゃ上げたいと思っています。

 

では最後に、お客様へのメッセージをお願いします。

CHAiroiPLIN スズキ拓朗 小林らら ジントク

小林 初演でこの作品に出演した時に、ダンスとか演劇とかいう枠が、全く分からなくなっていく感じが、すごく心地よかったんですよ。だから今回、ぜひお客様にも同じ気持ちになってもらえたら嬉しいなって思います。その突き抜けた舞台の魅力を、いろんな人に観に来ていただきたいなあと。

ジントク まだまだ、落ち着いた状況とは言えませんが、しっかりと感染症対策を行い、お客様をお迎えできればと思います。これまで劇場へ来たことのある方も、どんなところかわからないという方も、こんなに楽しいところがあるんだと、舞台を満喫してもらえたら、嬉しいです。

拓朗 いろんなエンターテインメントの要素を散りばめて、お客様に、パワーや元気を届けられる作品に、仕上げたいなと思っています。観終わった後に思わず拍手をしたくなって、劇場を出た後に「面白かった!」と言ってもらえるように、皆で力を合わせて頑張りますので、元気になりたいな、パワーをもらいたいな、笑いたいな、って思いを感じたら、どうか期待を持って、劇場に足を運んでください。お待ちしています。

 

本日はありがとうございました。

インタビュアー 森元隆樹(当財団 演劇企画員)
2020年6月11日 三鷹市芸術文化センターにてインタビュー
 

CHAiroiPLIN 踊る戯曲『三文オペラ』