《インタビュー》沼尻竜典(音楽監督・指揮)

公開日 2021年11月11日

《インタビュー》沼尻竜典(音楽監督・指揮)
三鷹市名誉市民になられたことについて

 自分が生まれ育った所ですし、とても嬉しく思っています。小中学校時代の恩師や同級生たちからたくさんのお祝いのメールをいただきました。

 
2021年3月から新たに開始したミタカ・フィルとの「シューマンの交響曲全曲録音プロジェクト」について

 以前、生誕200年の時(2010年)に定期演奏会でシューマンの交響曲全曲を取り上げましたが、当時は録音しませんでした。今のミタカ・フィルだからこそ録音したいと思ったんです。

 シューマンはピアノ弾きだったので、自分としては親近感がありますし、彼が指揮者を務めていたデュッセルドルフのアマチュア合唱団と「第九」を演奏したこともあります。ホールは、シューマンが入水自殺を図ったライン川の畔にありました。

 彼の交響曲はとても魅力的でありながら、演奏される機会が多くはないです。題名が付いているのは1番と3番だけで、2番なんて凄い曲だと思うけれど、すべてに題名が付いていたらもっと演奏されるのではないでしょうか。彼のような初期のロマン派の音楽が難しいのは、旋律はロマンティックなのに、伴奏が一定のリズムを刻むなど非常に古典派的だったりするところです。極端な話、プッチーニだとロマンティックな旋律が出てきたら、いくらでもテンポを自在に伸び縮みさせられるのですが、シューマンはそれができない。決められた時間の中で歌うには、少々経験とコツが要ります。

 シューマンのオーケストラ作品は巧く書けていない部分が多い、という人もいます。確かに効率の悪いところがあるのですが、それが逆に彼の音楽の魅力になっていると思います。例えば、ここでこの楽器を入れた方がもっと響くのに、とか、入れない方が良いのに、とかいろいろあるのですが、そういうものを含めて「シューマンの音」であり、「シューマンの個性」なんですよね。演奏していて非常に楽しいし、人間臭さを感じます。

 全集を作ると、一人の作曲家の人生を俯瞰(ふかん)して見ることができるでしょう? それがまた面白いわけです。作品には作曲家のその時々の環境や思いが投影されているので、全曲演奏することによって、1曲演奏するだけではわからないことがわかってくるように思います。

 
第84回定期演奏会に向けて

 ミタカ・フィルは歌手の中島美嘉さんとの共演やグルダのチェロ協奏曲などの新しいレパートリーを披露し、三鷹以外での演奏機会も増えるなど、新たな展開も見せています。奏者は20代の若手からベテランまでが良い具合に混ざり、お互いに触発しあって演奏しています。さまざまな楽団で演奏する奏者たちが所属の垣根を越えて回遊魚のように集まり、それぞれが身に付けてきたことを発揮し、我々の音楽となって蓄積され、また奏者たちが回遊する。そんな流れが面白く、とてもいい状態です。ぜひ、聴きにいらしてください。

 
2021年10月 三鷹市公会堂 さんさん館にて
インタビュアー:大塚真実(当財団 音楽企画員) 協力:株式会社 AMATI
 


©YUSUKE TAKAMURA