公開日 2024年04月18日
今回の『デンギョー!』は再々演になりますが、初演の時、この作品を書こうと思われたきっかけは何でしたか?
松本 『デンギョー』って電気工事を請け負う会社のことなんですが、僕の実家の家業が、宮崎で祖父の代から続く電気工事会社でして、僕自身、高校を卒業して上京するまでの間、アルバイトをしていましたし、上京後に一度実家に戻った時は、会社を継ごうかなと思った時期もあったんです。結局、会社を継ぐ話は、ちょっとうまくいかなかったのですが、劇団を立ち上げた時から、その頃の経験を踏まえて、いつか電気工事会社を舞台にした話を書きたいなと思っていたんです。もしもあの時会社を継いでいたら、三代目社長だったかもしれませんから、ある意味「罪滅ぼし」の気持ちで、舞台上で作業着を着ることが多いのかもしれません(笑)。だから、「デンギョー!」のラストシーンあたりは、割と実際のエピソードに基づいて作っています。会社は、今はもう別の人が経営していて、ビルも建て替わったようなので、新社屋になってからは行ったことがないです。でも、ホームページでは、ちらっと見ましたが(笑)
「デンギョー」の仕事内容を教えてください。
松本 まあとにかく、建物に電気を通す、その仕事全般ですね。マンションや一戸建ての電気配線やスイッチの設営、意外と知られていないのが、避雷針の設置とかですかね。あとは、住居以外でも、野球場とかホールとかの電気工事の仕事も有りますね。ただ、大工さんに「ここに電気コードを通すので、穴を開けておいてください」と頼んでおいたのに開いてなかったり、完成して家を引き渡してから「コンセントを増やしてほしい」と入居者に言われて壁のパネルを剥がすことになったり・・・など、苦労も多い仕事です。
タイトルに「!」を付けた理由は?
松本 なんだろう?さかなくんの記事とかで「ギョギョギョ!」って書いてあったのを偶然見たのかな?(笑)。まあいずれにしても、インパクトというか勢いが欲しかったんだと思います。たぶん(笑)。
瓜生さんや松本さんの役どころは?
瓜生 元々バリバリの電工さんだったのですが、キャリアを重ねるうちに営業に異動となり、会社の経営も伸び悩む中、経営者と現場の板挟みになってストレスがたまっていき・・・という役ですね。前回は、ただがむしゃらに頑張って演じた感じで、俯瞰して役を捉えるところまでは行けなかったので、今回はもう一段深く、役を掘り下げていきたいです。
松本 僕の役は、現場の電工さんを束ねるムードメーカーって感じの人で、偉い人や営業さんと現場をつなぐ責任者、まあ言ってみれば、中間管理職ですね。
2021年の再演時のエピソードを教えてください。
瓜生 コロナ罹患者も多く、とてもピリピリしていた時期だったので、稽古が終わった後も全く飲みに行かなかったし、本番後の打ち上げも一切しなかったのが思い出されます。あとは、劇中のセリフで、演出家の松本さんが言うとすごく面白いのに、自分が言うと全く面白くないなと思えるセリフがあったんです。「潔く、一言で言い捨てる」感じの、歯切れの良いセリフなんですが、何度練習しても力強さが出なくて、どう言えばいいのか分からなくなってしまって。それで、もしかしたら、生命力に満ち溢れた男性になれば言えるかもしれないと思って、日焼けサロンで肌を焼いて、美容院に行ってオールバックにして、髪の毛も抜いてもらったんです。そうすれば、精力的な男性に見えるかなと外見から入ることにしたんです(笑)。
その効果はあったのでしょうか?
松本 髪の毛を抜いたかどうかは、言われなければ分からない程度の変化だったのですが(笑)、その、外見から入るという効果は出ていたようで、ゲネ(=全編を通して演じる稽古)の時、瓜生さんがそのセリフを言った瞬間、ベルトがぶちっと切れて飛んでいったんですよ(笑)。まさに、生命体としての力がみなぎってましたね(笑)。
瓜生 お陰様で本番では、そのセリフはとても評判が良かったです(笑)。どのセリフかは、観てのお楽しみということで。ぜひ、ベルトが切れて吹き飛んだ姿を想像しながらご覧ください(笑)。
佐藤 再演した際の劇場は、劇団として「いつかは公演したいね」と言い合っていた『下北沢ザ・スズナリ』だったので、とても嬉しかったですね。
松本 再演に当たって、初演時の台本を読み返してみたら、ウケを取りに行き過ぎていたり無駄なセリフが多かったので、まずはそれを、そぎ落として再演できたのが嬉しかったですね。あとは、ずっと役者さんがマスクをして稽古していたので、顔の表情で気持ちを伝えたりする演出がしにくかったんですよ。今回の再々演は、稽古中からマスクを外せると思うので、役者さんの表情もしっかりと見ながら、さらにじっくりと演出して、作品を煮詰めていきたいですね。
それでは、さかのぼって2013年の初演時の思い出があったら教えてください。
松本 この芝居の登場人物の年齢設定は40代が中心なのですが、初演の出演者は30代前半が多かったので、皆が少し背伸びしながら演技していたところもあったなあと思いますね。でも、公演はとても評判が良かったので、いつかまた上演できたらと思ったのを覚えています。
佐藤さんに質問です。劇団で担っておられる『CP』とは?
佐藤 僕はもともと音響として劇団に関わっていたのですが、音響だけでなく、自分が劇団の助けとなって、創作を一緒に共有してアイデアを出していく役目を担いたいという思いを込めて、『CP』すなわちクリエイティブ・パートナーを名乗らせていただいております。
松本 ずっと僕一人で劇団をやっていたので、佐藤さんから劇団員になりたいと言われるまで、劇団員を入れるという発想は全く持ってなくて、ただただ驚いたのですが、その後CPとして劇団に加入していただいて、随分助けられてきました。ありがたい存在です。
『音響』として、心掛けていらっしゃることは?
佐藤 すべてのお客様にセリフがちゃんと聞こえるという当たり前のことを、当たり前に届けられるようにと思っています。だから、お客様は気付かないかもしれないのですが、音のバランスに関してはものすごく調整しています。特に、役者が後ろを向いて喋っていても、客席にしっかりと聞こえるように調整をする時などは、「ちゃんと聞こえるけれども、少し後ろ向きっぽい声に聞こえるよう」加工をしているんです。今回ご覧いただく「デンギョー!」でも、雨のシーンにおいて、部屋のドアを開けた時と閉めた時の雨音の微妙な違いを、ぜひ聞いてほしいですね。あと、例えばですが、劇中でスマートフォンが鳴るというシーンでは、スマートフォン自体を鳴らすわけにはいかないので、舞台上の三方か四方に仕込んであるスピーカーを鳴らして、スマートフォンに一番近いスピーカーの音を少し大きくして、そこに他のスピーカーの音をブレンドしていって、あたかもそのスマートフォンが鳴っているかのように、各スピーカーの音を足したり引いたりして作っています。そのあたりの音作りにも興味を持って、舞台を観てもらえたら嬉しいです。
松本 今回は6月2日の公演終了後に、佐藤こうじによる音響解説を開催しますので、ご興味のある方は、ぜひその日にご観劇いただければと思います。
佐藤 これまでも何回か音響解説を実施してきたのですが、小さめの劇場での開催が多かったんです。今回、三鷹のホールは広いので、そういう大きなホールで音響講座をできるのが、本当に嬉しいです。
今回の舞台は、電工さんたちの仕事の辛さや人間関係などを中心に描かれていますが、皆さんの一番つらかった仕事の経験を教えてください。
佐藤 20代前半の頃、引越のアルバイトで、「隣の建物に事務所を移転する」というのがあったのですが、集合した段階で、アルバイトの人数と段ボールの数が全く釣り合ってなくて(笑)、「やべえな」と思っていたら、案の定無茶苦茶きつくて(笑)。段ボールは何百個もあるのに、アルバイトは数人で、しかも建物にはエレベーターがないんですよ。その時の引越屋の社員が、自分は運ばずに我々に指示だけ出していて、いつかああいう立場になりたいなと思いましたね(笑)。
瓜生 18歳の時、知り合いに頼まれて、ティッシュ配りのアルバイトをしたのですが、ティッシュをなかなか受け取ってもらえなくて、「自分の存在感ってなんだろう」という思いでいっぱいになって、1日で辞めました(笑)。受け取ってくれる人は「自分を人としてみてくれる人」で、受け取ってくれない人にとっては「自分の存在意義って無いんだな」と。
松本 考えすぎじゃないですか?(笑)。
瓜生 いやあ、あの時の自分には耐えられなかったですね。だからそれからは、ティッシュ配ってたら、必ずもらうようにしています(笑)。そういう意味でも、いろんなアルバイトをすると、それぞれの仕事の辛さを知って、人の気持ちが分かって優しくなれるので、若い人はいろんな仕事の経験をしたほうがいいと思います。
松本 30代前半の頃、日払いのアルバイトで、11tトラックの荷台から、肉の塊が入った袋を、ただひたすら降ろすという仕事をしたのですが、これがきつくて(笑)。
佐藤 一袋、どれくらいの重さなの?
松本 5㎏~10㎏くらいかなあ。とにかく終わらないんだこれが(笑)。で、ようやく終わったら、すぐ次のトラックが来て(笑)。あと、住宅街での新年最初の「燃えるゴミの回収」ね。正月の間に、たまりにたまったゴミがものすごい量で、これまた作業が終わらないんだ(笑)。あまりにつらすぎて、終わった後に飲みに行ったら、日払いのアルバイト代が全部無くなってしまって。悲しすぎたなあ(笑)。
最後に、お客様へのメッセージをお願いします。
佐藤 公演はもちろんですが、音響にもぜひ注目していただいて、よろしければ音響解説に参加してもらって、舞台の見方を広げてもらえたら、本当に嬉しいです。
瓜生 ご年配の方には懐かしさを感じてもらえる舞台かもと思いますが、若い人にも、何かをしっかりと感じ取ってもらえる作品だと思います。今回は再々演ということで、僕たちは郷愁をきちんと描きつつ、その先を探っていって、お客様にお見せすることができたらと思っています。
松本 3回目の上演となる作品であり、劇団の代表作だと思っています。それだけに、今回の再々演は、2010年に旗揚げした小松台東のひとつの集大成になるのではないかと思います。この公演を終えたら、小松台東として今後どういう作品を作っていくか、一度じっくりと考えたいなとも思っているので、今はとにかく、この舞台に全力を注ぎこみたいと思います。ぜひ、お楽しみください。
ありがとうございました。
2024年1月 三鷹市芸術文化センターにてインタビュー