『小松台東』インタビュー

公開日 2019年11月03日

『小松台東』インタビュー
 
『ツマガリク〜ン』というタイトルはどのように決まったのでしょうか?

松本哲也

松本 構想を練っていくうちに、全体として楽しい作品にしたいなと思いまして、もちろんそれだけではなくて、人間関係をきちんと描いていくのですが、今回はなんとなく、タイトルを聞いただけで楽しさが伝わるといいなと思いまして、宮崎県に多い「津曲」という名字の人を主人公にすることに決め『ツマガリク〜ン』になりました。読み方としては、親しみを込めた感じであることは間違いないのですが、時にはお願いをするトーンであったり、ちょっと怒ってたりするイントネーションでもいいなと思っています。

 
どのような話になりそうですか?

松本 宮崎の、とある電材屋さんを舞台に、その会社の社員たちの一日を、丁寧に描けたらと思っています。電材屋って、馴染みのない方もいらっしゃるかと思いますが、建設現場での電気関係の材料一式を扱う会社です。実は昔、3年ほど勤めたことがあるのですが、1日に数箇所の現場に部品を届けるので、8時30分始業でも、そこまでに車への積み込みを終えておかなければならないので、結局早朝6時には出社したりして、結構きつかったんですよ。そんな電材屋の喫煙スペースを舞台に、その隣に倉庫があって、実はこの倉庫は喫煙スペースの前を通らないと行けない構造になっているのですが、なので喫煙者も非喫煙者も、一日に何回かはそこに行かなければいけない・・・という場所での会話をメインに、さまざまな人間模様を描けたらと思います。

 
瓜生さんと今村さんは、どんな役どころなのでしょうか?

松本 実は、今村さんには、社長の息子であり、将来社長の座が約束されている、主人公の『ツマガリ君』を演じてもらおうと思っています。

佐藤 大抜擢ですね(笑)。

今村 光栄です。身が引き締まります。

松本 と、思っていたのですが、なんか今日会ったら、「彼が主役でいいのかな?」と思い始めまして(笑)。

今村 いやいやいやいや(笑)。驚きですよ。ほんとですか?

瓜生和成

瓜生 映画『桐島、部活やめるってよ』みたいに、主人公なんだけど、全く桐島役が出てこないとか(笑)。

今村 まじですか(笑)。舞台上にもいないということは、僕はロビーでお客様のチケットをもぎったりとか、そういうことでしょうか(笑)。

松本 まあ、お客様にも当日のお楽しみということで(笑)。で、瓜生さんには、その電材屋の支店長役をと思っています。

瓜生 僕の役は、確定でいいのかな?(笑)

松本 電材屋は、幅広い世代の男性が勤めていることが多いので、今回、20代から50代までの素晴らしい演技力を持った男優さんにご出演いただけることとなり、僕自身、すごく楽しみに思っています。女優陣も、いろいろな悩みを抱えつつも日々をたくましく生きる女性たちを魅力的に演じてもらえる、僕が信頼する方々ばかりなので、ご期待いただければと思います。

 

今回の公演は、「小松台東」が劇団として集団化して、最初の本公演となりますが、どのようなきっかけで集団化することになったのでしょうか。

佐藤こうじ

佐藤 「小松台東」に音響として初めて参加した時に、その芝居がものすごく胸に迫りまして、この素晴らしい会話劇を作り出す劇団に、自分自身がもっと積極的に参加できたらという思いが強くなりまして、そう思った時に、これは劇団員になるしかないなと。それで、「いつか松本さんと二人きりになったら、劇団員にしてくださいと言おう」と心に決めていたら、去年の春、三鷹の稽古場のエレベーターのところで、偶然二人きりになったので、『今だ!』と(笑)。

松本 驚きましたねえ(笑)。10年近く一人で劇団をやってましたし、もう40歳も超えたんで、今さら劇団を集団化するなんて全く思ってなかったです。

佐藤 そう、当時は松本さんが一人で全部やっていたので、それもあって劇団員になりたいと思ったんですよ。音響だけでなく、僕が制作的なことも担えたら、松本さんが少しでも楽になって、より良い芝居を作ってもらえるんじゃないかなと。

松本 その思いは、素直に嬉しかったですね。でも、即答はせずに、少しゆっくりと集団化について考えようと思っていたんです。そんな時、今村君と偶然、稽古場の喫煙所で一緒になったら、彼が「劇団に入れませんかね」と口にして。多分、演出家である僕の、ご機嫌を取るために言ったんだと思うんですが(笑)。

今村 この話になると、必ずそれ言いますよね(笑)。違いますって!ご機嫌取ろうなんて思ったことないですって!(笑)

松本 手がね、こう“揉み手”してて(笑)。

今村裕次郎

今村 してませんって!(笑)。初めて小松台東に出演させていただいた、その稽古の初日に、松本さんからいきなり「演技が、全部雑ですね」って言われたんですよ。そんなストレートに全否定されたことが無くて(笑)。でもその言葉がとてもすんなり受け入れられたので、この人の演出をもっと受けてみたいと強く思ったんですよ。そんな純粋な思いで劇団員になりたいと伝えたのですが、今思うと、僕のM心を刺激されただけなのかもしれません(笑)。

瓜生 僕も、初めて小松台東に参加した『勇気出してよ』の時に、すぐにその舞台が気に入りまして、劇団員になれないかなと思ったのですが、松本さん、ずっと一人でやっていらっしゃるし、無理だろうなあと思っていたんです。その後、佐藤君から「瓜生さんは劇団員にならないんですか?」と聞かれた時があって、佐藤君が劇団員になりたがっているのを知ったりして心が揺れていたのですが、そんなある日、今日の4人で、僕の家に集まって食事をする機会があったんです。そしたら「佐藤、今村、劇団員になります」って突然言われて。佐藤君はまだしも、今村君もってのが驚きで、思わず持っていた皿を落として割ってしまって(笑)。

 
三鷹での公演を前に、3月に小さなスペースでの公演を実施されましたね。

佐藤 とにかく、劇団員になって初めて迎える初日ということで、ものすごく緊張しました。その芝居において、音響は、一度だけラジカセの音を押すだけだったのですが、もう高揚感がすごくて。この感覚は劇団員でないと味わえないんだなと、興奮して眠れないほどでしたね。

瓜生 佐藤君は、普段、もっと大きな劇団や、多くのお客様が入る劇場での音響を何度も務めていて、それとは比べ物にならないくらい小さなスペースでの公演なのに、ものすごく緊張しているのが伝わってきて、その思いが嬉しかったですね。

 
では最後に、今回の舞台に寄せて、お客様へのメッセージをお願いします。

佐藤 劇団が集団化して初めての本公演ですし、自分の役割は基本的には音響ですが、それらスタッフワークも含めて、できる限り松本さんをサポートして、いろんな意見も出し合っていけたらと思います。そして、集団化したことで、小松台東の舞台がさらに深みを増したなと思ってもらえる作品をお届けできるように、頑張りたいと思います。

今村 まさかこのインタビューを受けているうちに、主役の座が危うくなるとは思いませんでしたが(笑)、与えられた役を精一杯頑張りたいと思います。もしかすると、舞台上ではなくロビーにいるかもわかりませんが(笑)、皆様と劇場でお会いできるのを楽しみにしています。

瓜生 ただ面白いというだけでなく、人間関係の奥行きというか、登場人物が抱えている思いの深さを、役者全員で、そして舞台全体で出せたらと思っています。ご期待ください。

松本 笑いの多い、楽しい作品にしたいとは思っているのですが、何もない一日の、その何気なく感じる会話が、実は表面張力のような人間関係の、ギリギリのバランスで保たれている瞬間を、丁寧に描いていきたいと思います。ぜひ、ご覧ください。

 

『小松台東』インタビュー

 
本日はありがとうございました。
インタビュアー 森元隆樹(当財団 演劇企画員)
7月18日 三鷹市芸術文化センターにてインタビュー
 
小松台東「ツマガリク〜ン」