公開日 2021年04月15日
なにげない日常や人間関係をシンプルに描いた会話劇で注目を集めている、 劇団『小松台東』。
星のホールで約1年半ぶりの新作公演を前に、作・演出の松本哲也さんと、
出演の瓜生和成さん、小園茉奈さん、青野竜平さんに、お話を伺いました。
今回の公演『てげ最悪な男へ』は、どんな作品になりそうですか。
松本 一言で言うと「復讐劇」です。僕も含めて、この1年間コロナ禍で、イライラしたりすることが多かった人もいるかと思うので、そういうストレスを発散できるような作品を作りたいと考えていた時に、ふと「復讐劇にしよう」と思いました。
それぞれの役どころについて教えてください。
松本 今回は女性が男性に復讐する話なので、主人公の女性役は小園茉奈さんに演じてもらいます。「最悪な男」役は、最初は客演の青野竜平君に演じてもらおうと思っていたのですが、最初から誰かを「最悪な男」役と決めても面白くないかもしれないと思い、誰が「最悪な男」を演じるのか決めずに書きました。青野君かもしれないし、僕かもしれないし、瓜生さんかもしれないし…。お客様には、そのあたりも、楽しみにしてもらえたらと思います。
小園さん演じる主人公の女性が、「最悪な男」に振り回されて、やがて復讐していく…というストーリーですね。
松本 そうですね。「最悪」の種類も色々ありますし、女性は振り回されているんだけど「最悪だけど好き」かもしれないし、もしかしたら「関わっている最悪な男は一人ではない」かもしれないし…、という感じです。
小園 最初、特に何も言われずに松本さんから声を掛けていただいて、出演をお受けしたら、いつの間にか主演ということになっていました(笑)。
松本 あらすじを送った時に、小園ちゃんから「いつもと違った感じで、また面白い作品になりそうですね」という返信が来たので、「これはもしかしたら、主人公の女性を自分が演じるとは思っていないな」と(笑)。なので、一言だけ「女性役は小園ちゃんです」と送ったら、「震えています」と返ってきました(笑)。
小園 震えが止まりませんでした(笑)。
松本 小園ちゃんは、小松台東に4回出演してくれていて、いつも女性キャストの中では一番若手で、主役に絡んだりする、脇を固めるような役どころだったんです。
今回ついに主役が来た、ということですね。
小園 初日が近付いたら、眠れないかもしれないです(笑)。
青野さんは、今回の作品についていかがですか。
青野 今までは三枚目とか、最悪なことをされる側の役が多かったので、今回の舞台にはワクワクしています。
松本 「最悪な男」の役は、見た目とギャップがある人が演じた方が良いなと思っていたんです。青野君は人が良くて、いつもニコニコしているイメージだったので、「最悪な男」を演じてもらったら、そのギャップが面白いと思って、出演を依頼しました。
青野さんと松本さんが出会ったきっかけは何でしたか。
松本 一昨年、星のホールで公演した『ツマガリク〜ン』という作品で、「20代に見える女性、出演者オーディション」をしたんです。「20代に見える女性」なので、解釈していけば『男性でも有り』なんですが、たくさん応募が来た中で、唯一男性だったのが青野君でした。
青野 ある時、偶然飲みに行った居酒屋に松本さんや瓜生さんがいらして、一緒に飲むことになったんです。その時、少し酔っている瓜生さんに「小松台東、好きなんです」と言ったら、「今オーディションやっているよ。20代に見える女性募集だけどね。まぁ、でも良いんじゃない。応募しちゃいなよ」と言われたので応募したら、後日瓜生さんから電話がかかってきて「今回は女性募集なのでダメです」と(笑)。「瓜生さんに応募しても良いんじゃないって言われたのですが…」と言ったら、「僕そんなこと言ったかな」と(笑)。
瓜生 松本君が「オーディションに、女装した男の人が応募してきたら面白いね」と言っていたのを覚えていたからだと思うんですが、結構酔っぱらっていたこともあって、その会話を全然覚えてないんです。
松本 青野君の写真を見たら、とても雰囲気が良くて、朴訥とした印象を受けたので、小松台東の作品に合いそうだなと思いました。あの時オーディションに応募してくれていなかったら、今回声は掛けていなかったと思います。
青野 本当にありがとうございます!
瓜生さんは、今回の作品についていかがですか。
瓜生 このコロナ禍で、例えば稽古時間がタイトになるとか、話し合いの時間が減ってしまうとか、今までとは違うことがいっぱいある公演になると思いますので、今までとは心持ちを変えて、新しいスタイルでやっていかなければいけないなと思っています。
タイトルの中に宮崎弁が出てくるのは今回が初めてとお聞きしましたが、公演タイトルの「てげ」は、どのような意味ですか。
松本 宮崎弁で「もっとも」や「すごく」などの意味で、大きく誇張したい時に言葉の前に付けて使います。
松本さんの作品は、ご出身である宮崎の言葉で書かれた脚本が多いですが、宮崎弁で芝居を作るのが一番しっくりくるのでしょうか。
松本 そうですね。宮崎弁ではない作品も書きますが、標準語だと言葉尻に困ったり、恥ずかしくて言えないセリフもあったりするんです。
青野さんは、小松台東の作品にどんな印象をお持ちですか。
青野 2015年に星のホールで公演された『想いはブーン』が、一番初めに観た作品です。その他にも『消す』(2018年/星のホール)や、昨年上演していた『シャンドレ』(2020年/こまばアゴラ劇場)も拝見しました。登場人物一人一人が魅力的で、柔らかくて温かい雰囲気があるのが印象的です。生々しさと笑いのバランスも観ていて心地よくて、飾っていない空気感が好きですね。
その小松台東から今回出演依頼が来た時、どんなお気持ちでしたか。
青野 大好きな劇団だったので、声を掛けていただいた時は少しボーっとしてしまったのですが、その後興奮して暴れました(笑)。
全員 (笑)
小園さんは今回4回目のご出演ですが、小松台東に出演される時に心掛けていることなどはありますか。
小園 すごく好きな劇団なので、稽古場に行くのが怖いというか、嫌われたくないというか(笑)。やらかしたくない、という気持ちが常にあるので、1回1回が勝負だと思いながら、稽古や本番に臨んでいます。だから、自分が出ていない作品の時に、稽古場を見学させてもらった際など、皆さんがコミュニケーションを取りながら稽古をしているのを見ていると、「なんで今回いないんだ!」と強く思います(笑)。
今回声が掛かった時は嬉しかったですか。
小園 本当に嬉しかったです。青野さんみたいに暴れました(笑)。
青野さんと小園さんの話を聞いて、松本さんいかがですか。
松本 嬉しいですが、そこまで好きでいてほしくないなあと(笑)。好き一辺倒だけでなく、疑問や疑いを持ってしっかりと稽古に臨んでいただきたいという思いもあります。ただ、もちろん有難いなと思いますので、僕がその気持ちに甘えないようにと思います。
今回の作品に向けての、ご自身の課題や、チャレンジしたいことはありますか。
瓜生 僕にしても青野君にしても、悪いことをしなさそうな人間だし、どちらかというと僕は善良な人なんです(笑)。僕は悪い役をやることが多いのですが、それは自分が普段悪いことをしないようにしているので、楽しんで悪い役をやれているのだと思います。ただ今回は、ギャップだけでは面白くないと思うので、自分でさらに構想を考えて作っていくことが課題だと思います。
青野 小松台東の作品は、内側の人間関係の深さで作られている印象があるので、色々な面を見せつつ、座組の皆さんとの関係性を作って、作品を掘り下げられるようにしたいと思います。
小園 昨年自分の所属劇団の公演がなくなってしまったこともあり、今回が約2年ぶりの舞台出演になります。すごく久しぶりで、お芝居の楽しさを自分の中で忘れつつあるので、その楽しさを自分の中でもう一度生み出していけるような稽古にしたいと思います。また、観てくださる方々にも「来て良かったな」と思っていただけるように、稽古段階から少しずつ積み上げて頑張っていきたいです。お芝居でも、表面的な部分だけでなく、内側の深い部分をしっかり意識しながら、皆さんに頼りつつ、でも頼りすぎずにやっていこうと思います。
松本 台本を書く作家として言うと、コロナというものを作品の中で取り上げるにしても取り上げないにしても、どういう存在として扱っていくかが、やはり今は一つの課題ではあります。ただ、それはそれとして、作品背景などを含めて、どれだけスケールの大きな作品が作れるかということを芯に据えることは、常に意識しています。
公演タイトル『てげ最悪な男へ』にかけて、今思い出せる「てげ最悪な〇〇」というエピソードがありましたら教えてください。
松本 「てげ最悪なこと」で言うと、今依頼されている別の舞台の台本が、あまり順調に進んでいなくて…。昨日もずっと書いていて、夕飯を食べた後、夜8時頃に「3時間だけ寝て、起きたら朝まで書こう」と思いながら布団に入ったのですが、朝9時に起きました(笑)。3時間のはずが13時間の熟睡(笑)。それが一番直近の「てげ最悪なこと」です(笑)。
瓜生 昨年は、青野君とやるはずだった舞台や、小松台東の5月公演など、できなかった公演が多かったのですが、そんな中でも「無理かもしれないけど、やれたら良いな」という舞台の企画を準備だけは怠らずに進めていたら、ある時期以降、それらの公演が全て出来てしまったんです。おかげで一気に忙しくなって、寝る時間やセリフを覚える時間もなかったりして、特に8月頃は体が「てげ最悪な状態」でした。でも、それらをすべてやり遂げたことは良い経験になりましたし、良い仲間とも出会えたので、「てげ最悪」だったけど良いことだったなと思います。
最後に、お客様にメッセージをお願いします。
青野 不安定な日々が続いていますが、濃密で楽しい作品になると思いますので、観に来ていただけたら幸いです。
小園 観に来てくださったお客様が、観終わった後にもワクワクしていただけるような作品づくりをしていきたいと思いますので、ぜひ楽しみにしていてください。
瓜生 今回、1年半ぶりの三鷹での公演となります。松本君がこのコロナ禍で書いた作品が、観に来てくださる方々を驚かせるようなものになれば良いなと思います。また「フィクション」をお見せすることで、普段の生活から少し離れた非日常の時間をお楽しみいただき、観終わった後には優しい気持ちになっていただけるような作品にしたいと思います。
松本 インタビューを受けている今のほうが、去年よりも精神的にしんどい状態です。でもそれは、出口が近づいているからキツくなっているのかなという気もしています。公演が始まる5月には、世の中がどうなっているか分かりませんが、今よりもう少し出口が近づいているはずなので、「キツくても、出口があるはず」という今の時代にマッチしていて、小松台東を知っている人も知らない人も、全員が同じ気持ちになって、足並みを揃えて歩んでいこうと思えるような作品にしたいと思います。
ありがとうございました。
2021年1月21日 三鷹市芸術文化センターにてインタビュー
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2021年 5月21日(金)〜5月30日(日) 全13公演
三鷹市芸術文化センター 星のホール