本條秀慈郎 三味線コンサート「現代の三味線 “闇と光”」インタビュー

公開日 2021年08月24日

本條秀慈郎 三味線コンサート「現代の三味線 “闇と光”」インタビュー
 

このたびは、当財団主催公演への初めてのご出演、ありがとうございます。
昨年より続くコロナ禍において、活動に制限が及ぶなど多くの変化が生じているかと思います。この1年、本條さんはいかがでしたでしょうか。

本條秀慈郎 三味線コンサート「現代の三味線 “闇と光”」インタビュー ありがたいことに、活動状況は意外と変わっていないですね。僕自身の中で一番変わったことといえば、昨年から本腰を入れて唄を習い始めたことですね。毎週、師匠の本條秀太郎先生にお稽古をつけてもらっています。実は歌うことに対してコンプレックスがあったんです。日本の唄は高い声で歌う曲が多いのですが、僕の声は音域が低くて、高い声を出すのにとても苦労するんです。でも、習ううちに、発音する時の口の形がちゃんとしていれば、裏声(ファルセット)でも地声に聞こえるような響かせ方になる。そういったことがわかってくると面白くて。今は弾き歌いの魅力に取りつかれていますね。

 

本條さんは多くの現代の気鋭の作曲家への新作委嘱を活発に行っていらっしゃいます。

 三味線の曲を書いてほしいとお願いしても、ほとんどの方が初めて三味線を聴くというパターンが多いです。そのため、まずは楽器を手に取っていただくことが重要だと思います。ロンドンにお住まいの作曲家、藤倉大さんは1年と少し、毎週欠かさずお稽古をさせていただいているのですが、かなり上達が早くて、もう驚くばかりです。それほど作曲家の方は楽器を知ることが楽しみのひとつとなっているのではないでしょうか。一方で絶対に書きません、とおっしゃる方もいます。作曲家一人ひとりご自身の音楽観があるのは当然ですので、僕もそういう気持ちは大事にしたいと思っています。それでも演奏を聴いてもらったり説明をしたりして何度も口説くのですが(笑)。

 

師匠、本條秀太郎先生の影響について

本條秀慈郎 三味線コンサート「現代の三味線 “闇と光”」インタビュー 新しい作品を生み出すことは、師匠自身がされてきたことでもあります。楽器が好きで楽器が喜ぶということを常に考えていらっしゃるからだと思います。「伝統の明かりを灯すということは、常にそこに油を注いで、新鮮ないい養分をいれて、その時その時の明かりを灯していくことが重要だ」と師匠はよくおっしゃいます。伝統は守るべきものですが、ただ飾るだけではほこりがかぶってしまい、更にそこにほこりをかぶせてしまってはもったいないですよね。現代音楽という言葉を聞くと、特殊なものと思われるかもしれませんが、新しいことをやるというのは当たり前のことです。古典も今やれば新しいものですし、新しいものもやがていつかは古典となるわけですから。現代音楽としての三味線の面白い部分として、同じ三味線でも駒を変えたり、ばちを変えたり、糸の太さを変えたりと、カスタマイズできるということがあります。胴体は三味線のままでも、小物を変えることで楽器の可能性がどんどん広がっていくんです。現代音楽はさまざまな世界をつなげてくれる、そういうたくましさがありますね。古典と現代音楽は区別されることもありますが、両方を聴くことでより豊かになる、ということが前提に考えられるような世界になってくれたら。音楽をみんなで育てる気持ち、大事にしていく気持ちになればいいなと思います。

 

新作委嘱を行う中での苦労について

 作曲を依頼する際に、三味線のことを説明しても伝わらない部分もあり、この楽器の性質、質感を伝えることに難しさを感じたこともありました。例えば、三味線には「サワリ」というものがついています。人によってはそれが“雑音”に聞こえる人もいる。しかし、その“雑音”をこの楽器の響き、質感、と捉えて曲を書いてくださる人もいます。楽器に対して色々なフィルターがあったりすると、踏み込めない部分もあるでしょう。良い見え方、良い思い出だけではない人もいると思うんですよね。世界に三味線という楽器が知られて、多様な音楽で使われるという意味ではとても重要ですが、それだけだと、この楽器が培ってきた部分が面白くなくなってしまう。そういった意味では三味線は不思議な楽器です。

 

今回の公演「現代の三味線 “闇と光”」について

 これは「三味線の闇と光」という意味ではなく、闇と光は両方必要だという意味で、タイトルにしました。第1部では、まず、権代敦彦さんの「トリスケリオン」。この曲は三位一体、闇があれば光がある、生があれば死があるということを象徴的に表していて、曲の進行が三位一体と輪廻転生に結びついています。坂本龍一さんの「honj Ⅲ」は調弦の関係性がとても面白い作品で、ほとんどが微分音で書かれています。どちらかというとアジアの奥深くで木に糸を張って現地の方が弾く究極の世界のようなものがあって、楽器の機能性という意味では原点を照らしてくれる作品です。また、挾間美帆さんの曲は、もともとループマシンを使って進行していきますが、スティーブ・ライヒの音楽のような短い音型の繰り返しによって生まれてくる音楽で、現代においての輪廻転生を演奏できたらと考えています。

 第2部は「もつれ」というテーマがあります。当日はお話を交えながらプログラムを進めていきたいと思いますので、ぜひ楽しみにしていらしてください。

 

今回は「はじめての三味線」と題し、4歳以上から入場できる「こどもコンサート」と、本物の三味線を使ったワークショップを開催します。

本條秀慈郎 三味線コンサート「現代の三味線 “闇と光”」インタビュー 「こどもコンサート」とはいえ、大人顔負けのプログラムになっていますが、決して難しくありません。最初の「歌垣」は師匠が作曲したもので、三味線のルーツや素性がわかる、とても夢のある作品です。そしてバッハの曲ではばちを使わず、爪弾きで演奏をします。「日本チャンチャカ四季めぐり」は、僕が三味線のさまざまな曲をあわせて構成をしたものですが、風の音や水の滴る音などを、三味線の音から感じてもらえたら嬉しいです。今回、初めて三味線をホールで聴く方もいらっしゃると思いますが、お話を交えながらプログラムを進めていくので、このコンサートを通じて、三味線の持つ多彩な音を知ってもらえたら嬉しいです。

 ワークショップは、ずっとやりたかったことの一つです。例えば「歌舞伎を体験しよう」という体験プログラムの中で三味線が取り上げられることはありますが、三味線だけにスポットを当てて行うワークショップは少ないです。皆さん、この機会にぜひ一緒にやりましょう!三味線は楽器に張ってある絃を弾くことで音が出ます。ばちや自分の爪を使って音を出してみましょう。椅子に座って演奏するので、足がしびれる心配もありません。楽器を触ってもらえる機会があるということは、楽器にとっても良いことなんです。楽器にも命があります。楽器にとって弾いてもらうということは、私たちが生きることと一緒なんですよ。

 

公演に向けてお客様へメッセージをお願いいたします。

本條秀慈郎 三味線コンサート「現代の三味線 “闇と光”」インタビュー 今、言いたいこともなかなか言えないし行動も制限されているので、そういう時こそ心の内を刺激することが発散になるのかなと思っています。“闇と光”と題名がついていますが、重く捉えず、今まで日本が培ってきた風土や日本文化に回帰して、大きな気持ちで聴いていただければ嬉しいです。また、三味線が紡ぐ“闇と光”というのは、いわゆる現実と浮世の狭間のようなところがあるので、そういうものに自然と体を委ねていただいて、プログラムを通して三味線の音の“裏側の部分”がお客様に伝わるといいなと思っています。

 

ありがとうございました。公演を楽しみにしています。

 
2021年7月1日 三鷹市芸術文化センターにて
インタビュアー 鈴木愛子(当財団 音楽担当)
協力 MCSヤング・アーティスツ
 
 

公演情報はこちら☞三味線コンサート「現代の三味線 “闇と光”」