『第27班』インタビュー

公開日 2022年10月18日

第27班インタビュー
現代を生きる人々の苦悩や葛藤を題材にした群像劇を描く、劇団『第27班』。今回、星のホールで上演するのは、将棋の世界を舞台に、戦い続ける人たちを描いた『蛍』。約3年半ぶりの再演を前に、作・演出の深谷晃成(ふかたに こうせい)さん、出演の鈴木あかりさん、佐藤新太(さとう あらた)さん、大垣 友(おおがき ゆう)さんに、お話を伺いました。
 
今回は『蛍』(2019年3月初演)という作品の再演になりますが、新しく挑戦したいことなどはありますか?
深谷晃成さん
作・演出の深谷晃成さん

深谷 とても再演したかった作品でした。初演の際は、(劇団の公演ではなく)プロデュース公演ということもあって、いろんな制約があったんです。僕たちのやりたいことを最大限にできていたわけじゃなく、心残りも多々ありました。この作品をまた上演する時には、しっかりと僕たちの色に染めたいという思いをずっと抱えていたので、今回再演に臨めるのが、とても楽しみです。脚本や、配役も少し変えて、自分たちのやりたいことを詰め込んだ作品に仕上げていきたいです。

 
鈴木さんと佐藤さんは初演にも出演されていますが、その際の思い出などあれば教えてください。

鈴木 当時、私は子どもっぽい役を演じることが多くて、この作品でいきなり、人を引っ張っていくような、大人っぽい役柄を任されたんです。いろんな人から「いつもと違うね。」と言われるような配役でした。それもあって、すごく苦労したし、結構きつかったです(笑)。でも、いまだに自分が演じた中で一番好きなキャラクターなので、再演がすごく楽しみです。深谷には「再演でも、絶対あの役が良い!」と伝えました(笑)。

佐藤 主人公が好意を寄せている女の子がいて、その子と僕が付き合うことになったので、主人公にダメージを与えてしまうという場面があったんです。そしたら初日に、僕が主人公役に「彼女と付き合うことになった。」と言ったら、なぜかお客さんから爆笑が起きて(笑)。

一同 (笑)。

佐藤新太さん
出演の佐藤新太さん

佐藤 主人公がズンと落ち込むはずの場面なのに、全く予期してなかった笑い声が起きたので、ショックでした(笑)。演出家の深谷からは、「あのシーン、絶対に笑われないようにして。」って言われて、困りましたね(笑)。

深谷 でも、僕が「笑われないようにして。」と頼んでから、一回もその場面で笑い声が起きなかったのはすごかったです。

佐藤 ちょっとだけ声のトーンを落として、怖い話っぽくしました(笑)。

 
再演でも同じ役を演じたいですか?

佐藤 もうあの役は演じたくないですね(笑)。得意分野という訳じゃないですけど、僕は割とコミカルな役どころが多いので、自分自身への挑戦はあまりなかった印象があります。

深谷 『蛍』を再演するという話を、劇団員に話した時、佐藤新太からは「(前回、別の役者が演じた)棋士役をやりたい。」と、直談判がありました。その配役も個人的には観てみたいなと思っています。

佐藤 僕の大好きなシーンが最後にあって、棋士役がとても重要な役どころなんです。ぜひ、そのシーンをやりたいと思っていたので、できたら嬉しいですね。

 
大垣さんは、初演はご出演されていませんでしたが、今回の『蛍』ではどのような役柄になりますか?
大垣 友さん
出演の大垣 友さん

深谷 前回、別の方に演じてもらった、ホームレスの役になると思います。大垣は、劇団の音楽を担当してくれているので、今回は音楽もお願いすると思います。あと、ホームレスの役でもギターを弾いてもらおうかなと考えています。

大垣 前回はギターを弾いてなかったから、結構変わるんだね。

深谷 そうだね。変えていきたいね。

大垣 初演を観た時に、第27班が将棋の物語をするのがとても新鮮だったのを覚えています。だから僕も、新鮮な気持ちで演じたいですね。

 
今回は将棋の世界を描いていますが、将棋はもともとお好きでしたか?

深谷 小学1年生くらいから将棋は好きでした。上手くはなかったですが、対局はすごく好きで、よく上級生からぼこぼこにされて泣いていました(笑)。

 
なぜ将棋の世界を舞台にしようと思われたのですか?
第27班『蛍』
『蛍』2019年3月/萬劇場

深谷 将棋が、舞台に不向きだと思ったからです。あまりにも静かだし、客席から盤面は見えない。テレビ番組なら、「今このような局面になっています。」と、盤面だけを見せることができるけど、舞台上では、将棋の対局ってとても映えない。ただ、棋士同士のぶつかり合いには、静けさとは比べものにならないくらいの、気迫と執念と執着があります。その「静と動」がすごく好きで、舞台に合わないからこそやりたくなったんです。棋士たちの、静かに吠えるような魂を描きたいです。

 
深谷さん以外の方は、将棋をされますか?

大垣 僕は見るのが好きですね。YouTubeで「すごい一手」をランキング形式で紹介している動画があるんです。動画の中で、静かに淡々と解説している棋士が、想像を超える一手に、思わず「うおお!」って興奮して盛り上がっちゃう姿を見るのが楽しいです(笑)。

佐藤 将棋を打つ場面があるにはあったんですけど、演技をしながら将棋を打っていたので、めちゃくちゃ反則してましたね(笑)。「ああ、二歩だ。」って(笑)。

 
将棋は勝ち負けがはっきりした世界ですが、そういう世界への憧れなどありますか?

深谷 ありますね。『蛍』の登場人物たちは、形はそれぞれ違うけど、みんな「勝ちたい」と思っているんです。例えばなんですが、僕には営業職をしている友達がいて、その方は1位にならないと気が済まないっていう人間性なんですよ。すでに会社でトップクラスの売り上げを出しているのに、「1位を取りたい。」と言うんです。で、とうとうこの間、体を壊しちゃったんですけど、それでも「回復してまた戦いたい。」と言っていて。僕は、その「勝ちたい」って欲求に対して、もっと味方したいし、そんな人たちが心から好きなんです。「勝ち」の形は人それぞれで、「好きな人と付き合いたい」でも、「お金を貯めて何か買いたい」でもいい。僕らなら、「公演を成功させる、評価を受ける、コンクールで賞を取る」など、いろんな形の「勝ち」がある。その「勝ちたい」という、人が生きるための原動力が、きっと誰にも備わっていて、僕はそれをもっと肯定したいんです。世の中は今、働き過ぎている人たちをもう少し休ませようって流れになっていて、それはそれで正しいことだと思うのだけれど、それと同時に、「自分の身なんかどうなってもいいから、勝ちたい。」って人たちがいてもいいと思うし、そんな人たちが僕は愛おしく見えるんです。

 
本作は、そういう人たちへの賛歌ということですね。役者の皆さんはいかがですか?
鈴木あかりさん
出演の鈴木あかりさん

鈴木 私自身は、ずっと自分で勝ち負けを決めて、一人で暴走している感じでした。努力したのに結果が思ったものじゃないことが多かったです。ただ、年を取るにつれて、「勝つとは何か?」を考えるようになって、勝つことへの価値観が変わってきた気がします。他人より優れているかどうかでは無く、自分が最終的に納得できることが勝ちなんじゃないかって思うようになりましたね。

深谷 (鈴木)あかりちゃんは「勝ち」との付き合い方が、上手くなってきたような気がする。持ち前のギラギラ感は捨てず、いいポイントを、つかんだ感じがしますね。

佐藤 僕は29年間生きてきて、勝ったことが無いですね。何かで1位を取ったことも無いので、勝った時に見える景色を経験したことが無い。もちろん、とても勝ちたいんですけど、演劇において「勝つ」ってことがよくわからなくて。

大垣 演劇においては、勝ち負けってなかなか難しいもんね。

佐藤 以前、別の劇団の公演に参加した時に、ある女優の方がその劇団を辞めるので、その人に賞を取らせたいって思いが劇団全体にあふれている公演だったことがあるんです。今までの僕だったら、「俺も賞を取るぞ!」と思ったはずなんですけど、その公演に関しては、その女優さんをどう見せるか、それを第一に考えていました。結果、その女優さんが賞を取ったんです。その時にめちゃくちゃ嬉しくて、涙が出て、「ああ、こういう勝ち方もあるんだなあ。」と思いましたね。そういうこともあって、今も迷っているし、「勝つ」って何かを考えているんだと思います。

大垣 僕は負けず嫌いです。中学、高校、大学と、ずっといろいろなスポーツに燃えていて、今も社会人リーグでフィールドホッケーをやっているので、スポーツに関しては、とにかく負けず嫌いですね。フラストレーションもぶつけるし、相手にも容赦なくぶつかっていきます。ただ、芸術に関しては、個々の個性があるし、勝ち負けとかじゃなく、みんなそれぞれ頑張っている姿が素敵だなって思います。深谷が書いた脚本に、僕の演技や音楽が絡まって、勝ち負けじゃなく作品をどう愛してもらえるかで考えますね。

 
第27班
本作には将棋の天才が出てきますが、自分は何の天才だと思いますか?

鈴木 美的センスですかね(笑)。

佐藤 かっこいいなあ(笑)。

鈴木あかりさん
 鈴木あかりさん
*声を出さない状態で撮影しています

鈴木 私的には、誰にも絶対負けないと思っています。香水、洋服、髪形、美容、誰にでもなんでもお薦めできます。私は第27班のチラシやグッズのデザインをずっと担当しているんですが、総合的な美的センスに関しては、誰よりも自分が信じられるし、自分のセンスが一番好きです。「これ良いな。」って思うものは世の中にたくさんあるけど、それを見て、この人には勝てないと思ったことはないです。むしろ、「こういう世界もあるんだ!」って吸収して、自分のセンスを伸ばし続けられると思ってる。なので、一回も絶望したことが無いですね。その自信も天才的だと思いますけど(笑)。

佐藤 僕は人からなめられる天才だなと思います(笑)。舞台上に出てきた瞬間、「あ、こいつなら笑っていいな。」って思われたり、電車の中で、いきなり子どもに指を指されて笑われたりします(笑)。

深谷 どういう状況?(笑)。

大垣 僕は電車内のマナーだけは誰にも負けないですね。

一同 (笑)。

大垣 混んでなくても、絶対にソファの幅は守って座るし、絶対に足を伸ばさないし、立ってるときも絶対にバッグは前にして抱えます。

佐藤 今のところ、ただただ普通のこと言ってるよね(笑)。

大垣 友さん
大垣 友さん
*声を出さない状態で撮影しています

大垣 いや、絶対に負けない俺は。

一同 (笑)。

鈴木 でもこの前、電車で缶ビール飲んでたじゃん。

一同 え?

大垣 やめろ!言うなって!

一同 (笑)。

佐藤 電車で缶ビール飲んでた?劇団的に大丈夫これ?

大垣 いや、飲み物だから!迷惑はかけてないよ!(笑)。

佐藤 でも臭いとかあるから!

深谷 さっきまでマナーの話してたのに(笑)。

大垣 でも優先席には座らない!優先席には絶対に座らない!

鈴木 お年寄りが乗ってくると、すぐに席譲るもんね。

大垣 譲る!

佐藤 そう考えてみると、大垣君は「自分ルール」を守るのは天才的だよね。

鈴木 ああ~たしかに!

佐藤 ただ、そのルールの中に、これは絶対にしない、けど、ビールは飲むっていうのがある(笑)。その大垣君独自の緩急が分からなくなる時があるよね(笑)。でも、自分のルールを一回決めると、絶対にそれは守り切る。

深谷 自分の中で、失礼なときと、失礼じゃないときの境目がしっかりとあるよね。失礼だなって感じたときは、俺にも「それは絶対に失礼だから、ちゃんとやろうよ。」って言ってきて、確かにそうだなって思う。一方で、あれ?って思うときもたまにあるね(笑)。

 
深谷さんはいかがですか?

深谷 最近、自分は感動する天才なんじゃないかと思います。実は今、フラメンコにハマっていて、見学をさせてもらったりしているんですが、他の人が見逃してしまうようなものに、すごく感動することができるように思います。将棋もそうです。将棋も、興味のない人は、見逃してしまう。だから、僕が興味を持ったことを脚本にするのは得意だと思います。

鈴木 人って、言葉を使うにあたって、書くことに特化している人間と、話すことに特化している人間の2種類に分けられるらしいの。深谷は話が長いし、口下手だけど(笑)、その代わり書くことに能力を注いでるよね。

 
深谷さん、鈴木さん、佐藤さんは、前回の三鷹での公演(『潜狂』2019年8月)にも出演されていましたが、その時の思い出をお聞かせください。
佐藤新太さん
佐藤新太さん
*声を出さない状態で撮影しています

佐藤 第27班として、初めて大きい劇場で公演できたことが、とても感慨深かったですね。一つ覚えているのは、最後に生演奏で終わるのですが、「舞台上で僕らがつないできたものが、最後の演奏のシーンに上手くパスがつながった!良いパスができた!」と嬉しくなって、そのシーンになると僕は毎回、舞台裏でめちゃくちゃ踊っていました!(笑)。

鈴木 私は「とても暑かった」という記憶があって(笑)。公演が真夏の時期だったということもありましたが、作品自体もしっとりとした内容だったので、より暑く感じていました。舞台上では、ピアノの前に座っているだけの時間が30分くらいあって、暑くて鼻の下に汗をかいていたんです。それを共演者に見られるのが恥ずかしかったという思い出があります(笑)。

深谷 僕は、三鷹での公演が決まった時に、美術さんに「いつも公演している劇場の倍の広さだね」と言われたのを覚えています(笑)。結果、とても格好良い美術に仕上げてくださいました。

鈴木 確かに、舞台美術はすごい格好良かった!

佐藤 そういえば、公演中にベースが壊れたよね。

第27班『潜狂』
『潜狂』2019年8月/三鷹市芸術文化センター 星のホール

一同 そうそう、あった!

佐藤 音が鳴らなくなってしまって、「どうしよう」ってなったのを覚えています。結局その後はどうなったんだっけ?

深谷 ベースの中身の断線をチェックする機械と、その断線した部分をハンダ付けする機械を偶然照明さんが持っていらして、頑張って直した記憶があります。

大垣 僕にベース借りに来たよね?

深谷 また壊れるかもしれなかったから、一応借りておこうと思って。

大垣 なので、出演してないけど、一応僕も関わっているんですよ (笑)。

鈴木 確かに(笑)。

 
「第27班」という劇団名の由来を教えてください。
深谷晃成さん
深谷晃成さん
*声を出さない状態で撮影しています

深谷 僕が「27」という数字が好きなんです。「27」という数字に恋をしていて、昔からずっと変わらず好きで、何か自分が関わる番号に「27」が入っているだけでウキウキするんです。

 
「27」が好きになった、きっかけはありますか?

深谷 僕の誕生日が7月24日なのですが、27日が格好良いと思っていて、「なんで僕は24日生まれなんだ」と、劣等感を感じていました(笑)。「7月27日生まれだったら良かったのに」といつも思っていて、そこである時から「27」という数字が好きなんだなと気付きました。

 
「27」がお好きということですが、実際に「27歳」の時はどうでしたか?

深谷 三鷹での公演が決まりました!(笑)。残念ながら、公演期間中は28歳でしたが(笑)。

 
最後に、お客様へのメッセージをお願いします。

大垣 僕は今回初めて三鷹での公演に出演させていただきます。劇団員全員気合が入っていますので、よろしくお願いします。

佐藤 新しいメンバーも増え、劇団が盛り上がっているタイミングで、再び三鷹で公演できるので、きっとお祭りみたいな舞台になるのでは…と思っています。ぜひ皆さん観にいらしてください。

鈴木 芝居に対する考え方や、劇団に対する考え方など、初演の時といろいろなことが変わり、劇団としてパワーアップしているので、再演ではより繊細で強い作品が作れる気がしています。頑張りますので、よろしくお願いします。

深谷 僕は、「人は、自分の輝きを求めてさまよっている蛍の光のような生き物」だと思っていて、『蛍』という作品は、森を全体的なテーマにして、「その輝きを求めて人が森の中をさまよっている」というイメージで作りました。今回、自然が似合う三鷹で本作を上演させていただくにあたり、劇場と本作の世界観がとてもマッチするような気がしていて、そこに愛を注ぎたいと思っています。今から楽しみでなりません。ぜひ観にいらしてください。

 
第27班
*声を出さない状態で撮影しています
ありがとうございました。
 
インタビュアー 森元隆樹(当財団 演劇企画員)
2022年6月 三鷹市芸術文化センターにてインタビュー

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