iaku インタビュー

公開日 2021年02月03日

iaku Interview
 

iaku

「許す/許される」とは何かを考察し、
三鷹市芸術文化センター星のホールでの2018年の初演時、
その圧倒的な会話の重みとともに、大きな反響を呼んだ、
iaku『逢いにいくの、雨だけど』。
2年ぶりの再演を前に、
作・演出の横山拓也さんと、
出演の尾方宣久さん、異儀田夏葉さんに、
お話を伺いました。
 
初演時の思い出を聞かせてください。

異儀田 開幕するまでは「この作品がお客さんにどう映るんだろう」という不安があったのですが、反応がとても良く、お客さんと一緒にどんどん熟成されていった感じで。最後には客席の増設をするなど、嬉しいことが多かった公演でした。特に、セットの階段の高さがすごくて、その点でも印象深い作品でした。私は高所恐怖症なので、本当に怖かったなと(笑)。

尾方 階段は僕も怖かったです(笑)。

異儀田 階段が切り立っていて、一段一段が結構狭いんですよね。

横山 美術の話で言うと、舞台美術を先にデザインしてもらって、その後に台本を書くということにチャレンジした作品でもあったので、デザインが出来上がったの見て「イメージ通りのとても良い美術ができた!」と思って、一人で興奮していました(笑)。

異儀田夏葉
異儀田夏葉

異儀田 もちろん、とても格好良くて、素敵なセットで嬉しかったです。怖さのことは別にして(笑)。

横山 現代アートのようなデザインでした。ただ、役者さんたちがどのくらい怖がっているのか、僕の耳に入ってこなかったというか…。多分、僕が美術のすばらしさに興奮しすぎて、役者の皆さんの声が耳に入らなかったのかなぁと。

全員 (笑)

横山 稽古場ではセットが組めなかったので、イメージだけで稽古していたんです。ビニールテープで線を引いて、階段を上っているつもり、みたいな。

異儀田 いざセットができたら足がすくんで(笑)。

横山 実は、今回の再演も同じセットでやろうと思っていたのですが、怖かったという声が多かったので、美術は変更することにしました。大きなイメージは変わらないのですが、高さや傾斜を変えて、安全面を意識したデザインにしようと思っています。作品自体に関しては、最初に異儀田さんが言われたように、台本を書いている時から、この作品がどういう風にお客さんに届くのか、全く見通せない作品でしたね。ただ、過去にも同様の思いを感じた作品は多かったので。そういう意味では不安だけではなかったのですが、俳優に答えを提示できずに、安心させることができないまま本番を迎えたというのがありました。

 
再演にあたって、脚本や演出は変更されますか?

横山 初演の時にだいぶ改稿して作ったものなので、脚本を大きく変えたりすることはないと思いますが、演出面でいうと、前回かなり俳優任せにしていた記憶があって、もうちょっと一緒に「どういうところを詰めていけるのか」ということを、コミュニケーションを取りながら、楽しんで作っていければと思っています。

 
出演者全員、初演時と同じメンバーで、同じ役での再演となります。
尾方宣久
尾方宣久

尾方 僕は再演をやらせてもらう機会がよくあって、しかもメンバーも同じことが多く、それは大変幸せなことだと思っています。そういう座組では、一から仲良くならなくても良いので気持ち的にとても楽です(笑)。役についても、前回は初演の勢いでやっていた部分もあり、今回は初演から2年経ってもう一度客観的に見返せると思うので、もしも新しい感情が湧いてきたら、それも試してみたいなと思っています。

異儀田 私も再演をやらせてもらう機会が多いのですが、再演は勢いだけではできなくて、より人物を深める作業になってくるので、本当に難しいなと感じます。多分この2年の間に、自分の思い込みも入ってしまっているので、一回それを拭い去って、初演と同じメンバーが2年間で得たものも含めて、より良いものになればと思います。

 
初演時の稽古場の様子はいかがでしたか?

尾方 真面目な役者さんばかりで、ちゃんとセリフも覚えてくるし、自分たちでどんどん色々なものを提示してくるので、とても刺激的な稽古場でした。自分で台本を読んだ時にイメージした感覚とは違うアプローチをされている方も多く、「こういうやり方もあるんだなあ」とか、他の人のお芝居を見るのも楽しかったです。

横山 初めてご一緒する方が多かったので、ひとりひとりの役者としての性質や取り組み方などを観察しながら、ゆっくりゆっくり稽古していました。

異儀田 私は横山さんの演出がとても好きで、役者をとても信頼してくださるんです。インタビュー形式で「この時、どう思っていますか?」と聞いてくれて、本当に信頼してくださっているのがとてもありがたくて、役も作品も全員で一緒に育てていく感じがとても新鮮でした。出演者も初対面の方が多かったのですが、稽古を経て役者としての信頼で仲良くなっていきました。

 
公演が始まってからのエピソードはありますか?
横山拓也
横山拓也

横山 先ほども言ったのですが、初日が始まる前までは、この作品がどういう印象を与えるのかが掴めていなかったのですが、観客にどう受け止められるのかが日に日に分かり、作品への信頼が生まれていきました。1週間以上公演をする中で、だんだん俳優に作品が信頼されていく感じが味わえたのは、作・演出家としてとても幸せでした。

異儀田 終演後にロビーでお客さんに会うと、観劇中に感じていただいたことが直に伝わってきて、私はキミちゃんという役でしたが、まるでキミちゃんを見るような、何とも言えないような表情で見てくださったのが印象深いです。キミちゃんという役は、自分の役者人生の中でもとても大切な役だと感じているので、そういう経験ができたのは本当に宝物だなと思います。

尾方 僕も自分の役を結構褒めてもらって、調子に乗った部分はありました。

全員 (笑)

尾方 一つ驚きだったのは、役者全員が同じ楽屋だったんですよ(笑)。普通は男女で楽屋を分けるものなのですが、異儀田さんが「一緒が良い」と言い出して、一番大きい楽屋に皆で一緒にいました(笑)。

異儀田 楽屋がいっぱいあるのに、「一緒が良くない?」と(笑)。なぜかそうしたかったんです。

 

iaku

 
公演の途中から楽屋を一緒にされたのですか?

異儀田 いえいえ、初めからです(笑)。最初に制作の方が「楽屋割り、どうしますか?」と相談してくださった時に。この作品では、なぜか皆と一緒にいたかったので、提案したんです(笑)。

尾方 では今回も一緒で(笑)。

異儀田 もちろんですよ!(笑)。

 
好きなシーンやセリフがありましたら教えてください。

異儀田夏葉

異儀田 「ビュッフェ」というセリフを言う場面があるんですが、今回はどう言おうかなぁと(笑)。

 
イントネーションですか?

異儀田 テンションですね。お客さんにはそう思われないかもしれないけど、すごく難しいんです(笑)。あとは、最後のほうのシーンで、稽古の最中に自分でも予想しない声が出たんです。それをそのまま本番でもやることにしたのですが、自分の中でビックリしたことというか、この作品を象徴する場面だと思っているので、今回はどうなるかなぁと。2年経って、私はどう言うんだろうかというのが興味深いです。

尾方 僕も「なんか腹立つ」というセリフのところで、演じているうちに本当に腹が立つ時がありました。あと、悔しさを押し殺しながら喋るシーンで、悔しい思いが募ってきたことが何回かあって。そんなつもりでやっていないのに、自然とそのような感情が出てきたのは初めての経験だったので、印象に残っていますね。

横山 エピローグのシーンが印象深いですね、この部分、もしかしたら蛇足になるかな…と台本を書いている時には少し迷っていたのですが、今はそこを描けて良かったなと思っています。DVDを見返しても、涙が出るくらい、何か迫るものがあります。

 
他の役者さんのパートで、好きなシーンやセリフはありますか?

尾方宣久

尾方 川村紗也さんと近藤フク君が仲良く喋るシーンですね。どこにでもあるような日常会話なのですが、その何でもなさそうな会話の中から、二人の関係性が伝わってくるんですよね。いや、本当に内容が無い会話なんですけど(笑)。一度稽古中に、近藤君が、まったく違う役作りで臨んだ時があって…。

異儀田 すごく酔っぱらっている設定でしたね(笑)。

尾方 真面目にやってほしいなと思いました(笑)。

全員 (笑)

異儀田 その演技は違うなと皆が思いましたよね(笑)。

尾方 横山君が途中で止めるかなと思っていたのに、止めずにずっと見ていて(笑)。

横山 俳優による新しいアプローチですから、何か意図を持ってやっているのだろうと。だからそれは尊重しなければと思ったのですが、正直、意図は読み取れませんでした…(笑)。でも最後まで見届けないといけないと思って見ていました。

 
そこで何か生まれるかもしれないですからね。

横山拓也

横山 そうなんです。だから、途中で止めるのは失礼なことなので見ていたんです。まあ、結局、そのアプローチは止めてもらいましたけど(笑)。

異儀田 私は、橋爪未萠里さんが演じた叔母のマイコが、小学生時代のキミちゃんを家から送り出すシーンが好きでしたね。「小さい頃、こんな風に見送ってくれていたんだな」と思うと、胸に込み上げてくるものがあるんですよね。

 
皆さんが、今逢えるなら逢いたい人、謝れるなら謝りたい人はいますか?

横山 この作品を書くにあたって、自分の過去の“罪にならない罪”というか、自分だけが抱えている罪悪感のようなものを見つめ直したことがありました。その中で、今パッと思い出したのは、小学校の時、幼なじみとプールに一緒に行った時のことです。ちょっとはぐれた隙に、幼なじみが、いじめっ子2人組にプールの中で羽交い絞めにされて水をかけられていたのを見てしまったのですが、僕はプールサイドでずっと見て見ぬふりをしてしまったんです。もう気付いているのに「どこに行ったのかなあ」と探すふりをし続けて(笑)。いまだにその時のことを思い出すと赤面するし、勇気のない当時の自分を思い出して苦しくなりますね。

尾方 自分に引け目を感じて逢いに行くなら…というのは思い浮かばないですね。多分自分に都合が悪いことは忘れちゃってるんだろうなぁと思います。「この痛みを覚えていたら生きていけない」「忘れるっていうことは、生きていくために必要なことなんだ」というのがセリフの中にもあるのですが、多分僕も忘れてしまっているんだと思います。でも単純に逢ってみたい人はいますね。小さい時に出会っている人で、例えば幼稚園の先生とか、小さい時に一緒にいた子とかは、今どうしているんだろうなぁと思い出したりします。

異儀田 私も単純に逢ってみたいのは、小学校の時の親友です。最初は文通をしていましたが、そのうち途絶えてしまって、今はどうしているんだろうと思います。

 
最後に、お客様にメッセージをお願いします。

iaku

異儀田 このコロナ禍の中で自分を見つめ直した時に、「ああしたい、こうしたい」ということがたくさん出てきたんです。きっとキミちゃんも27年の間に自分を見つめ直して、「潤ちゃんに逢いたい」という気持ちが出てきたんじゃないかなと思います。「逢いたくても逢えない」という、この今の状況が、キミちゃんの心情と重なっているような気がします。簡単に逢えない時代が来てしまった今、「誰かに逢いにいく」ということが、この2年間で大きな意味を持つものになったと思います。劇場に逢いに来てください。

尾方 今回も同じメンバーでやれるというのがとても楽しみで、他の役者さんたちのお芝居も楽しみにしていますが、何よりも自分が楽しんでできたら良いなと思っています。上演時期には状況がどうなっているか分かりませんが、感染症対策には万全を期しますので、よろしければ観にいらしてください。

横山 2018年の初演は、演出家として中劇場レベルの空間に初めてチャレンジしたタイミングでした。この2年間で僕自身、演出という部分を突き詰めたり問い直したりもしました。今回も同じ俳優で再演するというところにプレッシャーも感じるのですが、稽古場で楽しみながら、色々トライしていけるのが楽しみで、初演よりも細かいところまで積み上げて強くなっていく作品ができるのではないかと思っています。大好きな作品なので、ぜひ観に来ていただけたら嬉しく思います。

 
本日はありがとうございました。
インタビュアー 森元隆樹(当財団 演劇企画員)
2020年12月2日 三鷹市芸術文化センターにてインタビュー
 
iaku『逢いにいくの、雨だけど』