公開日 2022年02月18日
2020年には星のホールで『三文オペラ』を再演するなど、ダンス×演劇の可能性を広げ、小説や戯曲や童話などさまざまなジャンルの作品を題材に、意欲的に新たな舞台を生み出し続けるチャイロイプリン!
落語「あたま山」を題材にした、約一年半ぶりの新作公演を前に、振付・構成・演出・出演のスズキ拓朗さんと、出演のジントクさん、よし乃さんに、お話を伺いました。
今回は『あたま山』という落語を題材に選ばれましたが、以前に『さくらんぼ』というタイトルで、同じ落語をモチーフにした作品を上演されました。今回は新作ということで、よろしいのでしょうか?
スズキ拓朗(以下拓朗) 新作になりますね。この『あたま山』という落語は、上方落語と江戸落語で、呼び方や話の進み方が多少違っていたりするんです。江戸落語での『あたま山』の方が、キャラクターの登場の仕方が少し面白いんですよ。前回の『さくらんぼ』は、とても小さな場所で上演したのですが、今回、三鷹市芸術文化センター星のホールという大きな空間で上演するにあたっては、以前作った『さくらんぼ』は、スパイスとして参考にはしますが、ほぼ新演出になると思います。
数ある落語の中から、『あたま山』を舞台化しようと思った理由を教えてください。
拓朗 世界各国の滑稽な話を集めた『おかしな話』という本があるのですが、その中にこの『あたま山』が入っていて、昔それを読んだのがきっかけです。三鷹のホールでは、落語をはじめとした伝統芸能を扱ったイベントが根付いているので、落語を題材にするにはピッタリだと思いました。
ジントクさんも『さくらんぼ』にはご出演されていましたね。印象に残ってることなどあれば教えてください。
ジントク すごい狭い空間で、とにかく物がたくさんあったのを覚えています。物理的に物を運ぶ時間がすごく多くて、ほとんど引っ越し屋さんみたいなことを毎日していました(笑)。バイクとかも運んだりして、一番プリセットの時間がかかる芝居だったと思います。
拓朗 そうそう。上演時間と同じ時間プリセットしてたよね(笑)。
ジントク 本番終わったらすぐに「プリセットだー!」って、準備して。準備したらすぐに「本番だー!」って。マラソン状態でやってたよね(笑)。色々思い出してきたな。
拓朗 ちょうどその頃に、舞台美術に青山健一さん(注1)が参加されるようになって、とあるシーンで僕が諦めようとした演出が一つあったんですよ。「これはできないね。やりたいけど、できないね」って。そしたら、スタッフルームから青山さんに「だせえこと言うなよ!やりたいことやれよ!」って言われて(笑)。
ジントク あったね!で、何とかそのシーンを作り上げたんだけど、結局、筋肉というか、力技で何とかしたのを覚えてる(笑)。
注1)青山健一
東京都出身。石川県金沢市在住。1997年、ジャズオーケストラ「渋さ知らズ」に美術、映像メンバーとして参加。以降、国内ライブや大型音楽フェス、海外ツアーまで全舞台美術を担当。オリジナルアニメーション、近藤良平やスズキ拓朗をはじめとするパフォーマーの舞台美術・映像、BEAMS Tなどアパレルへのイラスト提供、絵本など様々な活動を展開している。
https://aoken.info/about
よし乃さんは、このたび、新たに劇団員となることが発表されました。
ジントク 2022年1月の本公演(おどる戯曲「FRIEND」/あうるすぽっと)からの正式参加になります。
最初にCHAiroiPLINの公演に出演したのはいつですか?
よし乃 桐朋学園大学の卒業公演で『くるみ割り人形』(2020年2月)という演目に参加させていただいたのが最初です。
劇団に所属したのは今回が初めてですか?
よし乃 そうですね。大学を卒業してから、ずっとCHAiroiPLINのお世話になっていたので、こうやって劇団員になれて、もう万々歳ですね(笑)。
ジントク 桐朋学園の卒業公演の時に、「ちょっと僕、のぞきに行くよ」と言って、お手伝いのフリをして見に行ったんです。そこで、拓朗さんに「僕はあの人が気になりました。」って言ったんです。
拓朗 それが僕とまったく同じ意見でした。誰がいいとか言わずに、「どの子がいいと思う?」って聞いたら、まったく同じ人だったから「そうだよね。」って。
どんな風に誘われたのですか?
よし乃 ある時、急に大人数に囲まれまして(笑)。これは只事ではないなと。よっぽど良いことか、悪いことかのどっちかだと思ったので、劇団員へのお誘いで良かったです(笑)。いつか劇団員になれればいいなと思っていたので、こんなに早く誘ってもらえてびっくりしました。
CHAiroiPLINの稽古場で、何か他の団体とは違うなと思う部分はありますか?
よし乃 「とりあえずやってみよう」とか、「面白そうだからやってみよう」とか、フレキシブルに意見を出しあえることが特徴的かなと思います。やってみないことには分からないっていう空気感が、とてもやりやすいですね。
今回の舞台の、秘策などはありますか?
拓朗 二階建ての一軒家を建てようと思っています。もちろんセットとして(笑)。いつも三鷹のホールで公演するときは美術を凝りたいと思っていて。自由にセットを組めるのが星のホールのいいところだし、やりたいことを結構やらせてもらえるので。「僕の一番やりたいことはここでやってるよ。」と言えるホールだなと思っています。
『あたま山』は、「サクランボを種ごと食べた男の頭から、桜の木が生えてくる」という奇想天外な話ですが、なにかご自身で体験された「誰も信じてくれない不思議な話」があれば教えてください。
拓朗 僕、よく事故に遭うんですよ(笑)。大学生の頃に、甲州街道を自転車で立ち漕ぎで走ってたら、トラックが後ろから来て、そのサイドミラーにぶつかったんです。そしたら、たまたま服がミラーに引っかかって、体が自転車から離れて宙に浮いて、サイドミラーにぶら下がったまま100メートルくらい、トラックと一緒に走りました(笑)。「ちょっとちょっと!」って言いながら、立ち漕ぎから、空中漕ぎになりました(笑)。
全員 えええ(笑)。
拓朗 まったく怪我もなくて、運転手さんもまさか人が吊られてるなんて思わず、気付かなかったみたいで。「ごめんね、ごめんね!」って言って驚いてました。普通に自転車が並走してると思ってたみたいで(笑)。ただ、稽古場に着いて、この話をしたら全然信じてもらえなかったです。寝坊した言い訳に嘘の話をでっちあげたと思われて(笑)。本当なんだけどなぁって(笑)。
でっちあげたとしても、話が出来過ぎてますね(笑)。想像以上です(笑)。
よし乃 私はUFOをよく見ます。
拓朗 すごい!(笑)。
よし乃 小学生の頃、校庭で体育座りをして、先生の話を聞いてるときに、校舎の後ろから、こう、出てくるんですよUFOが。…笑わないでください(笑)。雲にシューって隠れて消えたんですけど、もう形があまりにもUFOで。人間の考えたUFOは、正しいUFOなんだと、その時知りました。
拓朗 何回も見たの?
よし乃 その形のUFOは3回くらい見ました。違う形のUFOも見てます。それで、自分の中で「UFOはいるんだろう。」と納得してしまって。東京ではまだ見てないですが、地元の岩手に住んでた頃はよく見てましたね。
拓朗 岩手は出そうだなあ(笑)。
よし乃 岩手にはUFOがいます(笑)。
『あたま山』にはケチ兵衛という、ものすごくケチなキャラクターが登場しますが、皆さんは自分のことを「ケチだなあ。」と思いますか?
よし乃 私はそもそも物が家にないんですよ。物を買わないんです。なので、家に包丁とまな板とフライパンが無いんです。
拓朗 うわー。っぽいなー(笑)。
っぽいんですか?(笑)。
拓朗 無駄な物がないんですよ(笑)。
よし乃 あんまりご飯を食べないってのもありますね(笑)。食欲があまりなくて。欲求が細いというか、欲望があまりないんです(笑)。
ダンスを踊りたい欲は‥‥?
よし乃 あ、ダンスは踊りたいです(笑)。
全員 (笑)。
よし乃 見る人から見れば、それがケチって見えちゃうかもしれないです。必要無かったら、いらないってなりますね。
ジントク 自分のケチな部分を探してるんですけど、なんか見当たらないんですよ。なので、僕個人はケチじゃないと思います(笑)。
拓朗 確かにケチじゃないかもねぇ。
ジントク 結構大雑把なタイプなので、「足りなかったら、多めに買っておけ。」っていうタイプですね。なので、お金は貯まらないです(笑)。
拓朗 僕は多分、ケチだと思いますね。例えば、牛丼屋さんでお持ち帰り用の紅ショウガを一つ貰うときに、「あの、もっとください。」って言うんです。それで2個ぐらいくれるんですけど、「もっとください。」って言って、結局20個くらい貰っちゃいますね(笑)。
全員 (笑)。
おいしいですよね、牛丼屋さんの紅ショウガって。
拓朗 そうなんです!そもそも、紅ショウガが好きで、ご飯にかけたりして食べたいんですよ。
ジントク あの、それって全部ちゃんと食べるんですか?
拓朗 冷蔵庫に入れてて。必要な時に食べようかなって思って。でも、ふと賞味期限とか見るとだいたいダメなんですよねえ。
全員 あ〜(笑)。
拓朗 そういうタダなら貰っておこうかなってところが、ケチですね(笑)。あと洋服とかも、全然違う用事で買い物してるのに、「あ、これいい!」ってなって、それが安かったら買っちゃうんですよ。
ジントク あ、よく買ってる!稽古場の行き帰りとか、「今日、買ったんだよね〜」って言って、袋持ってるよね。
拓朗 安かったり、フリーマーケットとかで洋服売ってたら、買っちゃうんですよね。安いものだと衝動買いしちゃうんです。その分、高いものは全然買わないんですけど(笑)。
他の劇団員の方は、いかがでしょうか?
拓朗 どうなんだろなあ。清水ゆりとかは、よし乃と同じようにあまり食べないですね。その分、楽器を買ってますね。
ジントク 彼女は楽器欲が凄いです。その分、寝るスペースが狭くなってますね。
拓朗 楽器にはお金を使うけど、寝る場所が狭いってことは、スペースをケチってるってことですね(笑)。
さて、今回は本公演に先駆けて関連企画を開催し、落語家の桂宮治さんをお呼びして『あたま山』を実際に話していただきます。何か関連企画の構想などありますでしょうか?
拓朗 その頃には、ラスト以外のダンスシーンがほぼ完成しているはずなので、そのエッセンスを使って、少しだけですが作品をお見せしたいと思います。
宮治さんは、話を引き受けてくださった際には『あたま山』が持ちネタではなかったのですが、「一年後なら大丈夫です。」と快諾してくださいました。
拓朗 先日、お会いする機会があったのですが、この人がその場にいてくれさえすれば、悲しみや病気なんかも、大抵のことは跳ね返してくれそうだと思いました(笑)。ほんの少ししかお話しできませんでしたが、勝手に友達になれた気分でした。会話すればする程、その場が盛り上がるので、自分は会話が上手いんじゃないかと勘違いするほど心地良かったです(笑)。
これまでも、いろんなジャンルの物語を作品にしていますが、これからやってみたい題材などはありますか?
拓朗 具体的な作品じゃないですが、「踊る神話」とか、興味あります。まだ勉強が足りないですが、「古事記」とかも面白そうだなって思います。
前回のインタビューでは、題材から「ここはダンスになりそうだな。」という場面をピックアップして、まずシーンを作り、それからつなげていくといった進め方をしていると伺いました。
拓朗 今回の『あたま山』は、そもそも短い話なので、すごく広げないといけないと思っています。「頭」だったり、「サクランボ」だったり、「池」だったりと、作品に関する要素を引っ張ってきて。一見、『あたま山』には関係ないようなシーンをたくさん作って、そこからつなげていければと思います。
配役に関してのこだわりなどありますか?
拓朗 実は僕、一人が何役も演じるのがあまり好きじゃないんです。僕がお客さんとして芝居を観たときに、さっき出てきた役者さんが違う衣装を着て出てきても「あれ、違う日かな?」って思って混乱しちゃうんです(笑)。なので、自分の公演でも「アンサンブル」と「自分の役」っていう考え方しかないです。アンサンブルの時は、みんなアンサンブル。それ以外は自分の役。それぐらい極端に区別をつけますね。
三鷹のホールで公演をするときに感じるイメージなどあれば教えてください。
ジントク チャイロイプリンは、大道具から小道具まで作り物がとても多いので、美術を作れるスペースがあるのはすごく利点だと思っています。最後の一週間にめちゃくちゃ作り物が増えることがあるので、早めに美術に取り掛かれるのは作品のブラッシュアップにつながっています。
よし乃 ホールが広いので、大きいセットが組めるのはやっぱり楽しいですね。前回の『三文オペラ』では、大きい台をゴロゴロと動かしたりして、人の体では成しえない「場所が動く」っていう視覚的なアプローチができました。三鷹の広い空間ならではだと思います。
拓朗 時間をかけて作品を作れるイメージがあります。稽古場だったり、物を集めて置いておける場所があったりと、朝から晩まで長く取り組めるんです。最近は、一ヵ月間じっくりと作品に携われることも減ってきたので、三鷹の駅に降りると、毎回「よし、今日も作れるぞ。」って思えますね。あと、いい意味で三鷹って遠いじゃないですか(笑)。なのでその日、別の仕事が入れられない。だから稽古の日は、身も心も軽いんです。遠いけど、軽い。みたいな(笑)。
最後に、お客様へのメッセージをお願いします。
ジントク 三鷹での公演は今回で4回目になるんですが、今日、三鷹駅に降りたときに「見慣れた景色になったな。」という実感がありました。感染症の時期が長く続いていますが、昔はよく劇場に足を運んでたなって人も、これから何か面白いことないかなって思ってる人にも、劇場が見慣れた景色になっていけばと思います。僕たちにそのお力添えができればと思っておりますので、ぜひ、楽しみに劇場にいらしてください。
よし乃 新たにメンバーになって、これからどんどん作品作りに携われると思っています。いろんな人とお芝居を通じて、交流を深め、そこで人間的にも成長していきたいです。三鷹にもこれから、足を運ぶことが多くなっていくと思うので、よろしくお願いします。
拓朗 落語なので、とにかく楽しんで観に来てほしいです。ハテナ?と思うような、SFのような不思議な世界を楽しみにしてもらえたらなと。「すこし不思議」、いや「スーパー不思議」な世界を、ぜひ観に来てください。
2021年10月 三鷹市芸術文化センターにてインタビュー