公開日 2022年04月21日
巧みなセリフと確かな演技力で、人間関係を浮かび上がらせる、劇団『小松台東』。
新たに星のホールで上演するのは、コロナ禍の中で、さまざまな困難の果てに生まれた『シャンドレ』。
約一年半ぶりの再演を前に、作・演出・出演の松本哲也さん、
出演の瓜生和成さん、今村裕次郎さん、森崎健康さんに、お話を伺いました。
今回の『シャンドレ』は再演になりますが、初演の際は、コロナ禍の影響もあって、当初の構想とは大きく変わったとお聞きしております。その経緯など教えてください。
松本 初演は2020年11月に、こまばアゴラ劇場で行いました。当初は、男女含めて10人くらいのキャストで上演する予定だったのですが、新型コロナウイルスの感染者数も多く、スタッフも含め20人くらいのチームで進んでいくのは、かなりリスクが高いと判断しました。けれども、何とか中止にはしたくなかったので、『シャンドレ』というタイトルはそのままに、内容を変えて、出演者を減らし、劇団員のみで上演しようと決めました。もともとはスナックを舞台にした、女性がメインの話にしようとしていて、あらすじも固まり、そろそろ台本を書き初めようとしていたタイミングでの判断でした。
初演の反響などはいかがでしたか?
今村 観客がどんなふうに受け入れてくれるのか、そしてコロナ禍でどれだけのお客様が来てくださるのか不安でした。物語自体は、コロナ禍とは関係のない話だったので、マスクを着けずに演じました。終演後の面会こそできませんでしたが、お客様からアンケートなどで「こういう舞台が観たかった。」「今だからこそ、観れて良かった。」という声を頂けたのが、ありがたかったですね。
瓜生 その年、松本さんは多くの作品を書いていて、コロナのことを書いた作品もあれば、全く関係のない、ほのぼのとした作品もありました。そんな中、その年の最後に書いたのが『シャンドレ』で、あまり明るい話じゃなかったので、驚かれた方も多かった気がします。ですが、ほとんど劇団員だけの作品を楽しんでくださる人が多かったので、なんだか劇団として認められた気がして嬉しかったです。
初日は緊張しましたか?
今村 緊張したというか、すごく怖かったです。無事に千穐楽まで公演できるのか、お客様が明日からも来てくれるのか、中止になったらどうしよう、感染者が出たらどうなってしまうのか、などを考えて、日々すごく怖かったですね。
松本 2020年の11月頃は一日の感染者数が200人でも「すごく多いな。」って時期でした。しかも、だんだんと感染者数が増えていった状況だったので、無事に最後までできるかなって不安はありましたね。
瓜生 公演終了後はどんどん感染者数が増えていって、いろいろな公演が中止になっていったし、コロナに対して、どうすればいいのか分からない、手探りな状態で行った公演でした。
森崎さんはどういった経緯で『シャンドレ』へのご出演が決まったのですか?
森崎 もともと、内容が変更になる前の『シャンドレ』にもキャスティングされていたんです。ただ、コロナの影響もあって「今回は劇団員3人のみの公演にしようと思う。」と伝えられました。その後、『シャンドレ』の前に、小松台東の『グレートコマツブラザーズ』(2020年9月/本多劇場)に声を掛けていただいて出演しました。その公演後に、松本さんから「シャンドレの稽古期間中、俺の稽古場代役をしてくれないか?」と頼まれたんです。そして、代役として稽古をしている途中に、「ちょっと森崎君も出ようか。」と言われました(笑)。初めは1シーンだけの出演だったのですが、最終的にまあまあ出させてもらってビックリしました(笑)。
松本 結構重要な役でしたよ。後半の大事な部分では、舞台上に森崎君と瓜生さんの二人だけで、そのまま暗転するシーンもあったりして(笑)。
瓜生 『グレートコマツブラザーズ』の時に、稽古に向き合う姿勢がとても良かったんですよね。
森崎 ただ、「劇団員のみ」と銘打っていた公演だったので、内心、僕が出演して大丈夫なのかなという気持ちはありました(笑)。
今村 でも、公演の一週間前にTwitterで告知もしたし、当日パンフレットの出演者にも名前がありましたし。
瓜生 森崎君メインの素敵な舞台写真も、たくさん撮ってもらってたよね。
松本 今日なんて、真ん中の椅子に座ってるし(笑)。
全員 (笑)
代役としての参加から、実際に出演が決まったときはどう思いましたか?
森崎 もちろん嬉しかったです。ただ、松本さんの代役として演じる役の台詞量が尋常じゃなくて、とにかく必死でした(笑)。あの頃の情勢とかもあまり覚えていないくらい、必死に稽古をしていましたね。「怒涛の」ってこういうことを言うんだなと(笑)。ただ、毎日本当に楽しかったです。
今回の『シャンドレ』では一人の役者が複数の登場人物を演じ分けています。小松台東の作品では珍しいように思いますが、演じていて、大変だった点などあれば教えてください。
松本 小松台東で一人が複数の役を演じるのは、『シャンドレ』が初めてです。これまでの作品はワンシチュエーションの舞台が多く、今回のようにシーンがいろいろと変わるのも珍しい。役者4人だけで、詰所、スナック、路上、自宅の部屋など、いろんな場面を作っていくので、驚きのある演出だったと思います。これまでの小松台東では提示していなかったものを表現できたように思えるし、お客様からも新鮮な反応がありました。
今村 僕自身は大変だったという思い出しかないです。短い転換の間に、楽屋の中を走って下手(しもて)から上手(かみて)へと移動し、そのまま別の役で舞台に出るので(笑)。ただ、瓜生さんの部下役として会話をした直後に、お互い違う役で絡めたりするのは楽しかったです。
松本さんは主人公の町村(まちむら)役と、高校生役、酔っぱらい役の三役を演じていましたね。なかでも、高校生役の学ラン姿はとてもお似合いだったと思います。
松本 え~。でも、もう今年が最後かなあ(笑)。
全員 (笑)
松本 他の役もあったから高校生も演じられましたね(笑)。約2時間ずっと高校生役だったら、きっと心が持たない(笑)。
開場中、場内ではカラオケが流れていましたが、劇団員の方が歌っていたのですか?
松本 そうですね。開演の30分前から、劇団員が歌っている音源を一人ずつ流していました。そういう「遊び」が楽しいなと思って、劇団員の佐藤こうじ、今村裕次郎、瓜生和成、松本哲也の順番で、稽古場で録音した歌を、客入れのBGMにしました(笑)。
瓜生 お店でお酒が飲めない時期で、ましてやカラオケなんて行けなかったので、お客様にとっての疑似居酒屋、疑似カラオケになればいいなと思いました。
松本 おそらく、今回も開場中はカラオケを流すと思うので、早く来れば、みんなの歌が聞けるかもしれない。今回は森崎君にも歌ってもらおうかな(笑)。
今回、再演されるにあたって、台本に変更はありますか?
松本 大きな変更はないですが、台本を見直して、言葉を整理したりして、さらにクリアにしたいと思っています。ただ、今回は星のホールの広い空間に変わるので、舞台美術は大きく変えるつもりです。既に去年の10月くらいから美術の打ち合わせを始めているので、お客様がセットや仕掛けを見て「おお、すごい!」と感じてもらえれば嬉しいなと思っています。初演のシンプルなセットの色を残しつつ、グレードアップしていきたいです。
昨年は下北沢で『デンギョー!』(2021年9月/ザ・スズナリ)も再演されていました。新作と再演では取り組み方に違いはありますか?また、再演ならではのポイントがあれば教えてください。
松本 再演をする機会が無いと、自分の過去の作品を見直すことってあまり無いので、読み返して、反省点が見つかるのは良いことだと思います。『デンギョー!』は約8年ぶりの再演で、キャストも変わったので、0から作るような気持ちで、脚本も今の自分のスキルのもと、整理して上演しました。一方、今回の『シャンドレ』は、初演とキャストも一緒なので、芝居を丁寧に作っていきたいと思っています。
今村 役者としては、なるべく前回をなぞらないよう、新作に取り組むような気持ちで、台本を読み進んでいければと思います。
瓜生 すでに台本は出来上がっているので、稽古場では、話し合う時間を長く作れるのが良い点だと思います。話し合いの中で、物語、時代背景、キャラクターについて、イメージを膨らませたり、初演と違う設定にするのが楽しいです。再演だからこそ、前回とは違うものにできたらいいです。
森崎 『シャンドレ』の初演では、その時の熱量で生まれたものが多くあったように思います。改めて、冷静になって作品を作っていくので、少し怖さがありますね。僕としては、また宮崎弁を一から覚え直さないと(笑)。
松本 そういえば、去年の『てげ最悪な男へ』(2021年5月/三鷹市芸術文化センター星のホール)から、方言指導の方が協力してくれています。イントネーションも細かくチェックしてくれているので、今までよりも宮崎弁のレベルが上がっていると思います。
皆さんの思う、「見どころ」を教えてください。
瓜生 やっぱり、松本さんの千鳥足ですね(笑)。筋肉痛にならないか心配でした。
松本 あれね(笑)。筋肉痛にはなってないけど、スリッパが一個ダメになっちゃったな(笑)。
森崎 僕は、この作品全体を覆っている、閉塞感が好きですね。
松本 森崎君は親戚が宮崎出身だったよね。それに今回の『シャンドレ』の稽古前には、別の舞台稽古でまるまる1カ月間、宮崎に滞在しているので、僕らよりも宮崎を肌に感じて戻ってくると思います。
森崎 宮崎県のイメージって、ほのぼのしてゆったりした人たちってイメージだったんですけど、宮崎出身の人たちに『シャンドレ』を見てもらうと、「あれこそ宮崎だ。」という感想をもらいました。宮崎のもうひとつの真実というか、少しダークな感じを味わってもらえたらなと思います。
松本 ただ、やっぱり宮崎県民には、のんびりした雰囲気もありますね。ほどほどというか、めんどうくさがり屋で(笑)。人柄も本当に良いです。暖かいし、人をのんびりさせる土地柄であることは間違いないです。作品の見どころとしては、やっぱりそれぞれの演技ですかね。キャスト4人だけで、約2時間の話をやりきるので、演技に注目してほしいです。本編ラスト20分は僕と瓜生さんのシーンが続くので、そこは物語としても見ものかと思います。あとは、さっきも言っていたように、僕の千鳥足です(笑)。
今村 僕が劇中で歌っている場面も見どころですね(笑)。
瓜生 普段はゲスト出演の人も多く、劇団員同士で演技をする場面って意外と少ないので、一緒に演じるシーンが多くて楽しかったですね。
松本 あと、抽象的なセットの中で、シーンが移り変わるので、照明や音響もこだわって作っています。劇団員の佐藤こうじの音作りにも注目してほしいです。
今回はスナックの「シャンドレ」が作品の舞台になっていますが、スナックに行かれたことはありますか?
松本 実際、宮崎に「シャンドレ」ってスナックがあって、宮崎に住んでいた中学生や高校生の頃は、よく父親に連れて行ってもらっていました。時代が違うかもしれないですけど、昔は決まって一軒目が居酒屋で、二軒目がスナックだったんです。ただ、父親が連れていくから付いて行っただけで、中学生の頃は楽しくなかったですね。親父としては、息子に自分のテリトリーを見せたかったのかなあ。父親として、常連の店を子どもに見せたいし、店にも子どもを見せたかったんじゃないのかなと思いますね。
そこでの思い出が今回の作品にも反映されているのでしょうか?
松本 スナックの話はいつかやりたいと思っていました。ただ、どちらかというと、もともと予定していた『シャンドレ』の方が、女性も出演していて、思い出を巡らせて書くような作品だったのかもしれません。
お酒にまつわるエピソードなどあれば教えてください。
瓜生 最近は外で飲む機会が減ったので、久しぶりに人と会って飲んだ時の酔っぱらい方が本当にひどい(笑)。僕は、基本的にお酒を飲むと記憶が無くなっちゃうんですよ。昨日も佐藤こうじと飲みながらテレビ電話をしていたんですけど、何を喋っていたのか全然覚えてないんです。
森崎 以前、瓜生さんとテレビ電話をした時も、「健康君!今飲んでるよ!」って、一人で飲んでいて、びっくりしました(笑)。
今村 最近は飲んだ次の日に、僕に確認をするのがルーティンになってますね(笑)。「昨日の後半、僕はどうでしたか?」って瓜生さんから連絡がきて、昨日の状況を伝えると、「じゃあ、大丈夫ですか?記憶はないですけど。」と聞かれるので、「大丈夫です。」と言って安心させる(笑)。
瓜生 他に酔っぱらっている人が、その場にいると平気なんです。逆にみんな冷静だと、記憶が無くなりますね(笑)。
森崎 僕はお酒を飲まないと寝られないです。500mlの缶ビールとかをたくさん飲んでから寝て、朝起きるたびに「またムダ金使ったなあ」って思っちゃいます(笑)。家で一人で飲むしかないので、楽しくもない。お酒を飲みながらだと本とかも読めないので、だらだら4時間くらい、ぼんやりYouTubeを見たりして、「いったい何の時間なんだ。」ってなります。
松本 なんか、悩んでるんだね(笑)。心の中に悩みがあって、横になっても、いろいろ考えちゃうんだよね。
瓜生 きっと悩む体力があるんですよ。悩む体力とか悲しむ体力がなくなってくると、ストンと寝られますから。
森崎 その意見は初めて聞きました(笑)。
松本 俺も寝られないのが嫌だなと思いながらお酒を飲むタイプかな。思い切って横になったり、むしろ全く飲まなかったら、すぐに寝られるのかもしれない。
今村 湯船に漬かると寝られますよ。体が温まります。
松本 あとね、羊を数えると寝られるらしいよ。
全員 (笑)
森崎 原点に帰りましたね(笑)。
瓜生 日本語じゃなくて、ちゃんと「シープ」って数えるといいらしいですよ。
森崎 日本語じゃダメなんですか?
瓜生 あれって英語の「スリープ」から来ているんですよ。あと、部屋の電気は消してる?
森崎 電気は消してます(笑)。
松本 ちゃんと家の布団で寝てる?
森崎 寝てます(笑)。
松本 僕も最近はよく記憶を無くすかな。こう、グラスを口元に運ぶ動きが早いんですよね。もっとゆっくり飲めればなって思う。
今村 僕の場合は、記憶が無くなる前に眠くなっちゃいますね(笑)。あと、泡盛とワインとハイボールを交互に飲むと悪酔いするって分かってきたので、それはあまり飲まないようにしています。悪酔いすると、口が悪くなってしまうので、ビールだけとか、一種類だけを飲む。いろんなお酒を飲みたくなるのをグッと我慢して、お酒と仲良くしてます。
最近は、千穐楽の打ち上げもなく、少し寂しいですね。
瓜生 終わった気がしなかったんですよね。『シャンドレ』の時も『てげ最悪な男へ』の時も。いつもと同じ帰り道に思えるんです。
今村 明日もまた劇場に行くんじゃないかって気持ちがありますね。
松本 それはあるね。「終わったー!」ってならない。また劇場に行く感じ。
最後に、お客様にメッセージをお願いします。
森崎 小松台東の劇団員だけで始まった公演に、こうやってオリジナルキャストとして出演させていただいて嬉しいです。劇団員ではないですが、温かく見守ってください。よろしくお願いします。
今村 初演を観た方も、観ていない方も、三鷹だからこその『シャンドレ』だと思えるような面白い作品にしますので、ぜひお待ちしております。
瓜生 コロナ禍で、お芝居を観に行かなくなった人も多いと思うし、人にとっては、演劇ってすごく慎重な催しですよね。その上で、劇場に来てもらう意味を考えないといけない。楽しいだけの芝居、優しいだけの芝居じゃなく、人が懸命に生きている姿を見て、心が浄化されるような、笑える悲劇、悲しい喜劇にしたいです。観に来てくださったことで、明日からの糧にしてもらえたら嬉しいです。
松本 小松台東の作品で出演者が男だけなのは、この作品が唯一です。男4人の肉体を駆使して『シャンドレ』を上演しますので、濃い刺激を期待して劇場に来ていただければと思います。
ありがとうございました。
2022年1月 三鷹市芸術文化センターにてインタビュー